第28話 同じ趣味
Y子さんは一つ思い出したことがあった。それは若い頃は自分も歌が好きであったと言う事だ。自分の好きな歌であれば、友達が感心するほどに歌詞を覚える事も出来た。だがそれは趣味と呼べるとは自分でも思えず、歌手になりたいとはこれっぽっちも考えたことはなかった。
中学時代、何人かの女子生徒の中で、先生が
「あなたはビブラートのきいた本当にきれいな声をしているわね、
あなたも上手よね
そしてY子さんもね」
中学校の音楽の先生の評価は、Y子さん自身も正しいと思っていた。
「一番の未練はコンサートに行きたかったこと、そして・・・もしかしたらその後、カラオケで歌いたかったのかもしれない。それを叶えてあげれば、彼女も成仏できるかもしれない」
とにかく家に帰ってもう一度コンサートを見て、歌を覚える事にした。「私が歌うより、占い師の彼女が歌った方が良いのかもしれないけれど」とは考えたが、そこは自分も好きなことなので、深く考えることなく熱中してしまった。すると、自分の忘れかけていた能力のためか、人を思う気持ち、もしくは不思議な力なのか、とにかく数時間後には案外歌えるようになった。だが
「いや、成仏してもらうためには、体に歌詞がしみこんだ方が良い」
妙にやる気が出てきた自分が、うれしく、おかしく思えた。
一週間、Y子さんは音楽を聴き、歌いながら過ごした。もちろん、全ての歌をすんなり覚える事は出来なかったため、
「ああ、また間違えた」などと言いながらやっていることに、新鮮さと、感謝の気持ちまで感じるようになった。
「この曲素敵、出会えて良かった」
純粋に他人のために何かをすること、もちろん半分、もしかしたらそれ以上自分の趣味かもしれないが、仕事とは違う達成感を感じることが出来た。
「ボランティア、そうね・・・これがそうなのかな・・・」
自分が就職し、そういう活動に携わった事が無かった。無償で関連会社のお祭りの手伝いをしたことはあったが、それだって仕事と言えば仕事だ。
相手が亡くなった方とはいえ、今やっていることを無駄だとはそれこそこれっぽっちも思っていない。だが
「そう、私が歌って成仏してくれなければ、彼女がまた大変になる。
明日あたり、また行ってみようかしら」
二週間に千円ぐらいだったら、お財布にもやさしいと思えた。
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