第27話 コンサートの終わり
二時間弱Y子さんはそうしていた。不思議と人の目も気にならなかったが、コンサートのアンコールの声援がスマホから響くと、自分の後ろに誰かが立っているのがわかった。振返って見はしなかったが、何故か不思議と若い男の子であると感じた。そして自分の背中に向けられた視線は、その先の、事故のことを思い返しているらしかった。
占い師と一晩一緒に過ごしたから霊感が強くなったとは思わないが、多少感覚は鋭くなったのかもしれない。
大歓声がしばらく続き、再生が完全に終わってから、Y子さんは後ろを見た。そこにいたのはやっぱり男の子、というのは失礼な年かもしれない。亡くなった彼女と同じ年くらいの人だった。
「あの・・・彼女の友達だったんですか? 」ためらいがちに彼は話しかけたが
「いえ、面識はないのだけれど、あなたは? 」
いきさつが複雑すぎて、説明から逃れるためY子さんは質問した。
「僕は、中学校の時クラスメートだったんです。特に仲が良かったわけではなかったんですが、彼女の歌声は好きでした、教室でもよく歌っていましたよ」
「歌が好き、歌うのが・・・」
「それがどうかしましたか? 」
「いえいえ、ちょっと・・・その・・・」
「あの・・・ご存じですか? 彼女と全く同じ格好をした人が道路を横断しているって・・・」
「あ・・・あああ・・・・・」
「それで来てみたんです。この町にずっと住んでいるのに、一度だけしか参ったこともなくて。僕は彼女を中学までしか知らないですが、人を激しく恨むような子じゃないとは思います。
ただ、本人は生きたかっただろうなって思うと・・・なんだか申し訳ないような気がして。
僕も色々面倒なことがあって、イライラしていたんです。そんなときに噂を聞いて・・・でもあなたが彼女のためにやっていることを見て僕恥ずかしかったです。
「生きているんだから我慢しなさい」って彼女が言ってくれている気がしました、ありがとうございました」
「いえいえ・・・私も実は似たようなものよ・・・」
ほんの少し世間話をして、二人は別れた。
でもY子さんは帰り道で
「歌・・・歌か・・・」
とずっと繰り返していた。
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