第23話 寒さ


「寒いでしょ・・・この家・・・」

「そうね、寝るとき大変でしょ? 」

「まあ、買った洋服が色々あるので、それを布団代わりに」

「そう・・・あ! 」


とY子さんは立ち上がった。


「ちょっと待っていて、私家に帰って、また戻ってくるから」

「でも・・・今から雪になるって」

「ここはそんなに積もらないから大丈夫」

そういって、家に戻るなり

「お前、遅かったわね」

「お母さん、あの毛布ちょうだい」

「え、使わないって言っていたでしょ? せっかく買ったのに」

「ごめんなさい、もらうから」

「良いけど・・・出かけるの? 」

「友達にあげるの、寒くて風邪引きそう」

「男の人? 」

「まさか、じゃあ、行ってくる」


買ったそのままの、大きな、取っ手のついた四角い袋を下げて、また家を出た。微妙に残念そうな母親の顔が、写真のようにY子さんの頭に残ったが、それよりも寒さに震えている人を助けることが先だと、小走りになった。

すると、信号を渡り商店街に入る直前、綿雪がふわりと体にも毛布の袋にも数個舞い降りた。美しい雪の結晶を思い浮かべながら、Y子さんは占い師のところに帰った。



「新しい毛布・・・良いんですか? 」

「それがね、格安なのは良いんだけれど、きっとこの袋にずっと入っていたからかな、ちょっとビニール臭いというか、私ちょっとこの臭いが駄目で。母親は知っているはずなんだけれど、まあ・・・とにかく格安モノが好きなのよね・・・」


「でも、良い物です、すごく肌触りが良い。お母さんは買い物上手ですね」

「まあ・・・そこまで、嫌な人間ではないんだけれど・・・」


「完璧な親も子供に取っては逆に不幸です、過ぎたるは及ばざるがごとしです」


「そうね、そうかもしれない。ああ、すごいと思っていたの。あの・・・あなたの占いはすごく科学的な部分があって、私が今まで抱いていた占いのイメージとは違うんだけれど・・・逆にいけないかな? その話は」


「いいえ、良いですよ。その話ならば」


と、彼女の持論に至るまでの険しい道のりを教えてくれた。


「占いに来る人で、どう見ても「本人が原因」という事が結構あったんです。一度それをあまりにもストレートに言ったら、怒って帰ってしまい、挙げ句の果てに

「あの占い師は当たらない」って言いふらされて、その土地にいられなくなったんです。そんなことが度重なって、どうにかしなきゃいけないと思って、占い以外のことを調べ始めたんです。

そして、ことわざとか四文字熟語だとかのほうが、言われたら素直に聞いてくれたんです。でも、それだけじゃやっぱりカバーできなくて、経験がやっぱり足りないとわかったんです。それで、亡くなった占い師の方の資料とかももらって・・・」


「それでこれだけたくさんの資料があるのね」

「ええ、さすがにお見せすることは出来ませんが」

「確かに・・・」

色々と話していると深夜になった。Y子さんは明日は休みだった。


「あの・・・・・お泊まりになられますか? 」


占い師は、そうして欲しい、と言っている顔だった。



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