第19話 不思議な理由

 

 普段の業務を終えた警察署は、薄暗くて、ちょっと不気味な感じがした。その中を警官と歩きながら、この建物が病院と同じく「人の死」という事と直接的にかかわっている事を、Y子さんは改めて考えた。


 彼女は犯罪とは関係ないので、取調室に入ったわけではない。しかし聞き取りのプロというのはさすがにすごいとY子さんは思った。交通課の隅にあるソファーで、Y子さんが占い師の所にいって何を言われたかと言う事を、気が付いたら洗いざらい話していた。

警官が聞かなかったのは

「何故占い師のところに行ったのか」という完全プライバシーの理由だけだった。


「なるほど、同性愛の男性を助けた数日後に、そんな男がいたと言うことですね」

「ええ、その人の写真を撮ったら、いかにも「失敗した」という顔で」

「写真を撮った? 」

「ええ・・・あ! そうです、彼女から写真を撮っておくと良いと言われたんです。きっと何かの役に立つからと」

「それを見せていただけますか? 」

「勿論です」

気が付くと、夜勤の警察官だろうか、数人が集まって画面をのぞき込んだ。すると

「あれ・・・これ・・・」

「似ているな」

「目を整形したって話だっただろう? 」

Y子さんがいるのも忘れて、熱を帯びて話し始めた。そして警官の一人が

「すいません、本当に申し訳ないのですが、この写真の情報をいただけますか? すぐにお返ししますので」

「勿論かまいません、お役に立つのならば」

「ありがとうございます」

そう言って、数人がいなくなった。Y子さんは正直ちょっと「しめた」と思った。自分は協力しているのだから、質問にも答えてくれるのではと思ったからだ。


「あの・・・彼女は一体何をしていたんでしょうか・・・」

すると、最初の二人のうちの一人が

「その・・・まあ・・・あの場所で亡くなった老人を横断させて、成仏させてやろうと思ったらしいんですよ。確かに調べていると、数年前に車にはねられてあそこで亡くなっている。彼女が言うには

「地縛霊ではない。悪さをする人じゃないから、尚更可愛そう」と言うんです」

「じゃあ、別の場所でやっていたのも・・・」

「そうなんです。確かに交通事故で亡くなっている。あの占い師が町に来て数年ですが、全てそれより前の事なんですよ。

その・・・まあ年齢とかも詳しく言い当てているんでね・・・確かに一般の人間が調べることは出来なくはないです。売名行為とも考えられますが、それならばもっとネット上に挙げると思うんですが」

「全くしていませんよね、私も不思議だったんです」

「何でも「そうするなと神様から言われている」そうで。

確かに話していても突飛な感じはそれほどしませんでしたね、格好も今日は極めて普通で。コスプレ好きなのか、色々な衣装がありました。それは「趣味だ」と言っていましたが・・・」

「趣味ですか・・・趣味にしてはちょっと・・・」

「ちょっと何ですか? 」

「なりきった感があって、女優さんみたいに・・・」

「あ! 思い出した! 確かあの近辺でコスプレーヤーが! 」

「あ! そうでしたね! 会場に行く直前に信号無視の車に・・・

でも高級クラブのホステスみたいな時もあって」


Y子さんと警官二人は固まってしまった。するとスマホをファミレスのスプーンが入っているようなケースに入れて、警官数人が部屋に戻ってきた。その中の年配者の一人に、警官が

「鳥さん、商店街の中で亡くなったホステスとか記憶にありますか? 」

「ホステス? どんな? 」

「和服です、和服を着たホステスさんです」

Y子さんの声に警官達は驚いたが、その「鳥さん」と言われた男性は

すぐに答えてくれた。

「ああ、大分前だよ、バブルの頃だ。高級クラブの和服美人のホステス。死因が今ひとつはっきりしなかったんだ」


Y子さんはスマホを受け取り、警官は自宅まで送りましょうと言ってくれたが、行き先は変えてもらった。


「商店街の先にあるスーパーに」


食材を買うことにした。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る