第17話 国道で
Y子さんには、職場での幸せな時間が久々に訪れてくれた。
「結婚まで早かったね、でも良かった。コロナだから式にも参列しなくて良いし。まあ彼女にお祝いは嫌だけれど、コレで終わりなら」
彼女とは案外親しくしていた風の女性から言われたので、Y子さんはちょっとした人間不信の感情も生まれたが、それよりも普通に、円滑に仕事が進められることが有り難く思えた。
尚更占い師の彼女に感謝をしたかったが、逆にあまりにも何もないのに行っても迷惑になるかもという考えもあった。
「でも・・・最後の彼女の表情・・・何だか・・・不安げだったな」
自分の心が平成であるから、日に日に彼女のことが心配になってきた。
「やっぱり今日にでも行こう」と仕事中決心したからか、珍しく、急に上司と二人きりで取引先に行かなければならなくなった。
勿論、例の彼女のことで「君の方に問題があるのでは」と言った上司だ。
仕事は無事に終わり、彼の高級車で移動中、
「悪かったね、私が誤解をしていた」
という言葉が聞けると思った自分が、まだ若く、甘いと痛感したY子さんだった。
そして日本の会社員の多くが経験する、自分の正義感に完全にフタをして、たわいもない世間一般の話をすることを、会社に着く直前まで続けていた。
そんなストレスの真っ最中
「なんだ! あの女は!! 国道を!! 」
彼は急に車を止め、少しばかり上品な音色のクラクションを嫌というほど鳴らした。
見ると、ベールをかぶった女性が、この四車線の国道を突っ切っている。勿論横断歩道ではない。
「何をやっているんだ、確かに横断歩道の間隔が遠いのはわかるが!! 」
その声に実は「彼女は・・・」というY子さんの声が都合良く消されて助かった。もし知り合いだとばれたら、面倒な事になる。
そう、その格好はY子さんが初めて占い師に会ったときの姿だった。
「何なんだ、本当に!! 」
クラクションの中、彼女は歩いているのだが、その歩き方が、何だかおかしい。自分一人であるのに、横に誰かいるような感じで、しかも少し介抱するようなそぶりだ。
「年配の、足の悪い人と一緒に渡っている」
まさにそれだった。
「信じられん!! 」
Y子さん達の目の前を通り過ぎてしまったので、上司は車を走らせ、
Y子さんは、見える限り、ずっと後方を向いていた。
会社に戻り
「せっかく商談が上手く言ったと思ったら、事故るとこだった」
と上司が大きな声で話していると、誰かが言った
「ああ、僕も何日か前見ましたよ、全く同じですね、交通量の多い横断歩道でない所を、何だか腰をかがめて、妙な歩き方だったんです。でも別人でしょうね、あれコスプレーヤーかな、緑のカツラをかぶっていたから」
Y子さんは仕事が終わると、学生のように駅まで走った。
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