第15話 嫉妬も羨望も無く
「彼女が結婚で辞める? 」
「ええ、あの取引先の御曹司と」
「はあ・・・」
「皆そんな感じですよ、先輩」
例の彼女の話なのだが、その相手というのは、さすがに結婚願望のあるY子さんでも絶対に無理だと思った。お金のあることをひけらかすなら、まだ多少なりとも生気はあるが、生きているのかそうで無いのかわからないような感じの男性だった。小さい頃から厳しく育てられ押さえつけられすぎたのか、とにかく父親の会社で働いているが、はっきりとしない人だ。
が、将来は社長の可能性が高い。
女性陣は嫉妬心と思われたくないのか口をつぐみ、男性陣は美女のわかりやすい野望がショックなのか、全くの無言状態だった。
とにかく、あと数ヶ月の辛抱だとわかったY子さんは、ほっと大安心して、このことを「占い師が当ててくれれば良かったのに」と楽しく思った。
職場では、男性を助けたことは話さなかったけれど、あのぶつかってきた男のことは、注意を促すためにも細かに言った。
「そうなんですね、気をつけます」若い女の子はそう言い、
「女性版もあるだろうね」男性はちょっとくすぐられるような願望があるようだった。
三日ほど経って、Y子さんは占い師のところに行くことにした。
すると、商店街でうろうろとしている男性がいる。スマホを片手に「えーっと」と言いながら左右を見ている。するとその人と急に目が合ったあと、微笑みながらこちらにやって来た。
「え? 」
Y子さんと年齢もそう変わらない、しかも雰囲気の良い感じの男性だったので、心臓は急に高鳴り、表情は不思議と緩んでいた。
「あの・・・ちょっと道を教えていただけませんか? 」
「あ、はい・・・」
人当たりが悪くないのか、道を聞かれることは度々なので、
Y子さんはちょっとがっかりもしたが
「このあたりに占いの店があると聞いたのですが」
「あ! 知っていますよ! 」
元気良すぎる答えに、相手の方が少し引いてしまった。
例のライオンの所に行くまでは、ほんの数分だった。だが男性は
「もしかしたら、占いを受けたことがあるんですか? 」
「ええ・・・実はそうです。初めてだったんですが、私には、とても良いことでした」
「そうですか、ありがとうございます」
丁寧にお礼を言って、彼は薄いドアをノックした。
その日はそれを見ただけでうれしかった。
「お客さん、来ているんだ、よかった」
Y子さんの心の中に、占い師が住み始めたようだった。
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