第11話 感謝と真実
「本当に美味しい」
「きっとお腹がすいていたんでしょう、ごめんなさい、卵焼きとかまるで朝食みたい」
「いや、美味しいよ。家庭料理ってやっぱり良いね・・・ここは実家だろうけど、君の彼は・・・幸せだね・・・僕も良く作っていたんだ」
Y子さんは、彼のこの言葉にどう答えたらと迷ったが、でもとにかく正直に話さなければいけないと思った。
「私ね、実は誰ともお付き合いしたことも無くて。だからあなたの
気持ちが正直わかってあげられるかどうかわからないの・・・」
彼の顔をちょっと恐る恐る見ながら言うと、彼の方はちょっと微笑んで
「そう・・・じゃあ僕のように悪い男に振り回されないようにしないとね」
ポツポツと話し始めた。
それは全く男女間と変わらなかった。浮気癖のある男性から良いように使われて、貯金もかなり取り崩してしまったという。
「よく聞く話だろう・・・自分もそんな風になるなって思わなかった」
「同性の恋愛でもあるんだ・・・ごめんなさい、何だかそれがちょっと意外で・・・」
「男も女も恋をすると同じなんだろうね。裏切られたことに自暴自棄になって、遠くにやって来てしまった。どこかに自分の恋人が追いかけて来てくれるかもしれないという希望を残していたけれど。
でもおかしいよね、結局人混みの中にいるんだ、山の中とかじゃ無くて。死んでも良いと思いながら、死体は見つけて欲しいと思ったんだろうか」
「きっとあなたを捜索する人のことを考えたんじゃないかしら」
「そうかな、そこまで考えたかな」
話すにつれ、普通の感じに戻って行くようだった。
「町に一日いて・・・色々なモノをもらった。その時に思ったんだ。一見普通の人たちだけど、もしかしたら自分と同じような経験したり、それ以上のことがあったりしたんじゃないかって。
他人は自分が思っている以上にかしこい人で、自分は思ったほど人間が出来ていなかったんだって、そう悟った・・・お風呂の中で」
「お風呂の中で? 」
「生きているって、普通の生活って有り難いなって思った。もう一度生きてみたいと思ったよ。人の家のお風呂でって、きっと将来は笑い話になるね。君には感謝してもし尽くせない」
その言葉の後、Y子さんはまず頭を深々と下げて
「ごめんなさい・・・実は・・・・・」
真実を隠すことはいけないと彼女も悟った。
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