第5話 大谷選手の真似
占い師の作業が一段落したのだろう。彼女はもう一度衣服を整えてから、何故かそう高くない椅子、しかもY子のものと同じ高さであるのに、長いベールをひらりとさせて、格好をつけて座った。
そして今度はじっとY子さんを、占い師で無ければ失礼なほど見つめた。そして
「うん・・・うん・・・」と自分で何度も何度も頷く度、その強すぎるメイクの中の瞳が、らんらんと輝きを増してきているのに、Y子さんは釘付けになってしまった。
そして唐突に
「今、あなたは仕事で問題を抱えている」
ちょっと低めの声だった。
「ええ・・・そうです・・・」
「で、原因は? 」
「その・・・後輩が私の言ったことを聞かないというか・・・注意したら、私が上司に嫌みを言われるようになってしまって・・・」
「会社が面白くない」
「ええ、仲の良い先輩も退職されてしまったので」
「で、その後輩は同じ失敗を繰り返す? 」
「ええ! そうです!! よくわかりましたね!! 占いでですか? 」
「そんな事は占わなくてもわかる。解決法も簡単」
「え! どうするんですか!! 」
「その後輩が好きなら、時間をかけて一つずつ悪いところを指摘して、一つずつ解決していけばいい」
「え・・・・・そんな時間は・・・・・仕事ですから・・・・・」
「じゃあ放っておくこと、あなたは自分の事だけになるべく集中するようにする」
「はあ・・・・・」
Y子さんは落胆してしまった。そんなことは何度も何度も自分に言い聞かせてなんとかやって来たのだから。ちょっと腹が立って、一万円がふと惜しくなった。そのことを占い師は感じ取ったのか
「大谷翔平を知っているか」
「メジャーリーガーの? むしろ知らない人のほうが少ないでしょ」
「じゃあ、彼がゴミ拾いを率先してやっていることを知っているか? 」
「もちろんです! 有名な話です」
「では、それを知って日本中からゴミが消えたか? コンビニの前は相変わらずゴミだらけではないか? 」
「あ・・・・・」
確かにそうだとY子さんは思った。「人が捨てた運を拾う」と大谷選手はやっている。
「大谷選手がゴミを拾う事を知って、自分もと思ってやっているのは、野球選手を目指すかはわからないが、とにかく素直な子供ぐらいだ。今はコロナであまりゴミを拾うことはされなくなったが、あなたはどうだ? ゴミを捨てるか? 」
「いえ、そんなことはしません! 」
「では拾うか? 」
「あ・・・そりゃ毎日はしませんが、目につけばします」
「では、その後輩はどうだ? 」
「あ!!! 」
Y子さんは思い出した。後輩のことをどうしても良く思えなかったのには、理由があった。彼女はオフィスの上司、同僚達がいる前では小さなゴミでも拾うのだが、誰もいないところでは、例え大きな目につくものでも知らん顔して行ってしまうのだ。
一度二人きりの時に
「先輩、ゴミが落ちてますよ」と言われたことがあった。
あまりの衝撃に
「後輩のあなたが拾いなさい」と言う言葉さえ、浮かびはしなかった。
「その・・・人前では拾うというか・・・」
「やっぱりそのタイプか。だとすればあなたと違い、妙なところに要領が良く、口が立つ。
だが心配いらない、その裁定は神が下す、あなたや私がやることでは無い。それよりももっと別のことで来たのでは無いか? 」
Y子さんは黙ってしまった。自分でも薄々わかっていた。彼女に対する怒りで自分の欠点というか、弱点を見ないようにしている事を。
そのことで、ここにやって来たのだった。
今度はY子が姿勢を正し、占い師にはっきりと言った。
「私、男性とお付き合いしたことがないんです・・・・その・・・
私の何かが悪いんでしょうか? 」すると速攻に
「そうだな、見た目だ」とはっきりと言われた。
さすがにコレには嫌な表情をY子さんがみせた。美人から「あなたの容姿が問題」と言われるのは、例え真実にしても、占い師からでも不愉快極まることだ。しかし、この若い占い師の本心はそうでは無かった。
「問題は、あなたが「自分は今まで何人かの恋人がいて、激しい恋も別れも経験してきました、という顔をしている」と言う事だ」
目からウロコの言葉に、Y子さんはちょっと身ぐるみを剥がされた様な気分になった。
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