第3話 二・三十年前
「やっぱりもったいないかな」とY子さんは商店街のライオンの前でうろうろとしていた。
冬が始まり、甥姪のお年玉のためのプールもしておかなければいけない時期なのだ。が、それでも昨晩自分自身を納得させた事を、店の入り口の二メートル以内でも行わなければいけなかった。
彼女は今まで、個人的な占いを受けたことは無かった。
星座占い、簡単な姓名判断などを人並みに楽しむ程度、つまり、こういうことに対し、強く否定も肯定もしないという立場だ。それを自分としては「正常で理性的」と思っていた。
「やったことの無いことを、やってみようと思ったじゃないの」
とほとんど人の通らない道で、自分に言い聞かせながら、何故だか徐々に、不思議な感覚を感じはじめた。最初ためらっていたのは金額のこと、でも今は別のことが足を止めていた。
「怖い・・・何を言われるかが・・・私の欠点も何もかも洗いざらいなのかな・・・・小学校でボロボロになった雑巾を目の前におかれて「これがあなたの心」って言われたら・・・」
しかし、自分が何故か集中しているのもわかった。
道路から少し離れてはいるが、近くに出来たショッピングモールを目的地にした車が、かなり走っているはずである。でもその音が全く聞こえない。
「何かが・・・ある・・・やっぱりここには・・・
さあ、やっぱり勇気を出して行こう! 」
でも何故かバックの上からお財布を確かめるように触っていた。
前はオープンだった花屋の入り口には、とってつけたような壁とドアがあった。急に冷たい風が吹き、薄い壁の向こうの、ちょっと強すぎほどの暖気が、結局はドアをノックする原動力になった。
「どうぞ」
とてもゆっくりだった。
その声はどう聞いても、若い女性が自分を落ち着いて見せようとする演技のように聞こえ、ちょっとゆるんだ表情で彼女は中に入った。
占い師は、本当に装った感じそのままだった。
日本の模様ではない布をベールのようにかぶり、縁には飾りがついている。だが、全体的に暗い感じの色ではなく、ビーズと細い糸で編んだ小さな小さな花飾りの可愛らしさは、むしろ花嫁のようだった。
しかし対照的なものが、その中に鎮座していた。
「メークがきつすぎるでしょ、まるで社交ダンスの大会みたい」
ドラマやマンガで見る、一目見たら誰でも占い師とわかる格好だった。今時、こんな姿をした職業人は絶滅寸前のはずだ。
「占いを受けに来たのか?」
威圧的な声に複雑な気持ちだったが、
「はい、よろしくお願いします」
「では前金で」
「は・・・い・・・」
「横に電気ストーブがある、衣類には気をつけて」
「はい、どうもありがとうございます」
思った以上に気の利く人だな、というのが、占い師に対するY子さんの第二印象だった。
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