第二十八章 因縁果報(5)
「ああ、断絶となっているそうだぞ」
「えぇ……じゃあどうするんですか、あのぼんぼん」
「いやぁ、
「大体、象山の開国派の印象を暈すために佐久間から三浦に改めたんでしょうに、あの人父親の名前全く隠す気ないですよ」
それも近藤のお墨付きを得たためだろう。
攘夷派の部類に入る新選組の中にあって、開国派の影がちら付けばやり難い。
しかし近藤に取り立てられていれば、そんなものは瑣末な事だった。
「なかなか横柄に振る舞っているようだが、新選組には厳しい規律があるだろう? それには抵触せずに済んでいるのか」
「今のところは、ですね。まだ大人しくしているほうではないかと思いますよ」
しかしそれも時間の問題であるかに思える。
「彼が新選組に居着くことはないでしょうね。私も土方さんがそう望んでいる以上は、そのように動くつもりでおりますし、この話は黙認頂きたく存じます」
局を脱するを許さじ、と定められた禁令がある。
通常、一度入隊すれば脱退することは叶わず、脱走した者は切腹を申し付けられるのだ。
命を取られることなく松代へ帰されるのは幸いな事だろう。
「揉め事を起こして私闘にでもなれば、それもまた切腹となるのだろう?」
梶原の問いに、伊織は一つ頷く。
すると梶原はまた嘆息して、座したまま背筋を伸ばした。
「いずれも一筋縄では行かない者ばかりであろうが……、内側から瓦解するようなことのないよう気を付けることだ」
「重々、承知致しておりますよ」
大方の話を終え、伊織は暇を請うて席を立つ。
が、部屋を出る直前に足を止めた。
「梶原さん」
首だけを巡らし、肩越しに梶原を見遣る。
「ん? なんだ?」
「もし、……もし、ですよ?」
「んん?」
言い淀む伊織に怪訝な目を返し、梶原も覗き込むように首を傾げた。
「もし、会津に仕えたいという隊士があったなら、お取次ぎ頂けるでしょうか」
あくまでも仮の話であり、そして伊織自身が出仕したいというわけではない。
「……それは、確約は出来かねるな。人物如何によっては取り次ぐかもしれんが、今話したぼんぼんのような奴では門前払いとなるぞ」
伊織は答えを聞き終えると、しっかり梶原を振り返った。
「あー、そりゃそうですよね。すいません、誰というわけではないんです。何となく気になって訊いちゃいました」
一笑して改めて礼を述べると、伊織はそのまま部屋を後にした。
***
もう一人、会っておきたい人物がある。
伊織は再び本陣の奥へ赴いた。
本当ならばもう少し早く会って話をしたかったが、京を出立するという話は聞こえてこなかったし、まだこの本陣に留まっているはずなのだ。
「時尾さん?」
失踪から一転、立ち戻ったとあれば内部でも様々に事情を聴かれているだろう。
中から一言、入室を促す返事が聞こえ、伊織は障子戸を滑らせる。
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