D-DAY5 ゾンビ・ラッシュ

 山梨県境にある峠に1台の車が停車していた。

「これからどうする気だ?」

「なにが?」

「はぁ・・・、大阪に行くにしても東京を経由しないと行けないから」

「ああ。そうだったな」

 後部座席からはショットガンを手入れする音が聞こえてきているが、外には漏れていない。

「ところで、さっき。私さ、嘘を吐いたンだよね」

「ん?・・・もしかして、両親が海外に居るって事か?」

「ええ、父は陸自の陸将なの、母は海自の海将補。騙してごめんなさい」

 えぇ・・・、陸将って――親父の後輩じゃン!しかも、海将補ってお袋の副官やン!

「じゃあ、親父の知り合いか。雫とも小さいころに出会ってそうだな」

「え・・・?じゃあ、キミがあの有名狩人元木源三郎げんざぶろうの息子なの・・・⁈」

「久しぶりに親父の氏名を聞いた気がするよ、そうだよ。雫、キミとは幼馴染かもね」

 その言葉を聞いた雫が涙を流した途端に、渉が叫んだ。

「2人のムードを邪魔して悪いけれどさ。奴ら、来やがったぜ」

 渉が指差す方向を見た俺と雫は顔を合わせた。

「渉、予定変更だ。東京へ行こう!行って、食材確保と補給物資調達だ」

「オーケイ、そう言うと思っていたさ。エンジン快調!お二人さん、しっかり捕まってくれよ!」

 アクセルを命一杯踏み込み速度計が80を指した時、渉がにやついてハンドブレーキを解除した反動で猪突猛進のような勢いでカーブに迫った。

「これが――マルチヲタクの力だ!」

 ハンドブレーキを再度引くとタイヤがスリップを始めた。

「わ、渉さん――⁉」

「ワタル、お前って奴は・・・ドリフトを決めやがって――」

 タイヤが滑った反動でハンドルを逆に切ると、某ドリフトアニメのようにきれいなドリフトを決められる。渉は山梨では有名な走り屋でありゲリラ戦法を得意とするサバゲーマーでもあるのだ。

「隼みたいに完璧なドリフトじゃないけれど、俺だって――勉強した結果さ‼」

 急カーブを何ともないかのようなハンドル捌きで走っている姿を後部座席から見ていた雫は、改めて渉の事がカッコイイと思っていた。

 山梨を抜けて燃料ぎりぎりの状態で東京に入ると、先程の戦車が道端に停車していた。

「何とか着いた、東京都。日本の首都だ・・・って、燃料がギリ!」

「サンキュー――渉。雫、さっきの自衛隊の戦車だよな。ここにあるのって」

 車を降りて、一周見て回るとハッチが開きっぱなしだった。

「ええ、そうね・・・燃料不足とか?」

「いや、そうじゃないと思う・・・。なぁ、渉!待ち伏せって事あるか?」

 渉が扉を開けて車を降りて、雫と隼の所まで行って開きっぱなしのハッチを見た。

「それか・・・奴らになったのか――⁉」

 銃を構える音が背後からしたので一斉に振り返ると、89式小銃や20式小銃を構えた自衛官が俺達を囲んでいた。

「貴君らに告ぐ、あの車の運転者と同行者は何処だ?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 俺達は89式小銃や20式小銃を構えた自衛官に囲まれていた・・・って、納得できるかぁあ‼地元を出て来たと同時に、車もガソリン使い過ぎてエンジンお釈迦になったンだぞ!

 俺と渉が黙秘権を行使中に雫を見た自衛官はどこかに電話をかけていた、陸将である雫のお父さんに電話しているのだろう。

「――小隊長。陸将から〈丁重に出迎えろ。〉だそうです!」

「分かった、雫さん!どうぞ、乗ってください」

 えーっと、・・・俺達は?

「私だけですか?彼らは、孤立していた私を助けてくれた方ですよ!それに・・・元木家の長男でも父――陸将にお礼を言わせる事でもダメですか?」

 ちょっと、雫さん⁉

「・・・分かりました。君たち、話は後で聞こう。取り敢えず、乗りなさい」

 小隊長さん、なんかすみません・・・。

 10式戦車の後方にあった1台の96式装輪装甲車があったが、1人の自衛官が指差して叫んだ。

「後方に暴徒、距離300!」

「何⁈総員、戦闘配置‼方陣態勢に移行しろ!」

 また戦闘かよ・・・、こっちは残弾少ないンだぞ!

 車から取り出して来た12ゲージ弾を8発装填できるポンプショットであるM1011と12ゲージ弾を5発装填できる猟銃に改造したイサカM37に給弾し終えて銃口を奴らに向けた。

「突撃にぃ、前へぇ!」

 雫が12ゲージ弾薬箱から次の弾薬を取り出して来て、隼や渉に投げ渡していく。

「ばっちり、8発だよ!――ワタル、5発投げるよ!」

「サンキュー、雫。――ッ、リローディング!」

「弾薬、再装填!」

 2人が自衛官の前で戦っているのを見た小隊長は、感服していた。

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