D-DAY4 思い出

 車から降りるとき、雫を車に待たせると渉と共に実家に向かった。

 玄関を開けると目の前に見えて来たのは、母の朽ち果てた死体だった。

「これは酷いな、梁も朽ち果てているぞ」

「ああ、それに。母が感染したらしい証拠も見たよ」

「あ、あー・・・。気の毒に・・・」

「いや、良いよ。携帯貸してくれるか?車に忘れた」

「ああ、良いぜ」

 親父の携帯番号にかけると、留守電になった。

「――ッ。そ、ん、な・・・、親父ぃ――!」

 微かに携帯の向こうから奴らと同じ喘ぎ声が聞こえてくるから、それで全てを悟った。親父は――厳格で優しい親父は奴らになったのだと・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 親父の書斎にあるM37やM1011のストックを無くしたソードオフショットガンを感謝しながらガンラックから取り外して12ゲージ弾薬箱を取り出した。

「――ッ、お世話になりましたぁあ‼」

 玄関を出る時に堪えていた涙が頬を伝る中、家に向かって2礼拍手をして「南無阿弥陀仏なむあみだぶつ・・・」と言いながら近くに畑があるのだが母が大切に植えていた睡蓮花すいれんかを車にあったセロハンテープで玄関に止めた。そして、いは無いという顔立ちで車に戻ると雫に撃ち方や手入れの仕方を簡単に教えたあと、「おい、リーダー。次の目的地は?」と渉に言われた。

 渉なりの励まし方だ。

「そうだな、次は渉の家族だ」

「了解だ、リーダー」

「雫、家族は何処にいる?」

「海外だから、期待はしていない」

「そ、そうか・・・。――なんか、すまん」

 車が山梨を出る頃、とある山の中には1体の死人が家族写真を持ちながら彷徨っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る