第2話 私綺麗?
ピピピピ・・・ピピピピ・・・
「むぅ~」
ピピピピ・・・
「ああー。起きるかなぁ」
ピッ・・・
「ふぁぁぁ・・・。ねむっ」
私の部屋に朝陽が降り注いでいる。
どうやら今日は快晴らしい。
「あぁぁぁ。学校行く気にならねぇ!!」
枕に顔を埋めながら精一杯叫んだ。
コンコン
「はい・・・」
ガチャ
「永遠?何か騒がしいけどどうかしたの?」
ママだ。
「ごめん。思春期あるあるだから。ちょっと叫びたくなっちゃった」
「そうなのね。まあほどほどにしなさいよ~」
「は~い」
なんか許してもらえた。
ママは滅多に怒らないが、怒った時は怖い。
別に怒鳴ったり、暴力なんて振るわない。
ただパパが無茶したりするととてもお怒りになられるのだ。
ママはパパの事を本当に愛してる。
だからパパが傷ついたりするとそれもまた激昂する。
だけど私はそんなママが大好きなのだ。
愛するものために怒ったりできるって凄いと思う。
「ご飯は今から作るから待っててね」
「うん」
今日はママの番のようだ。
朝ごはんはママとパパが交代で作っている。
この役割分担は、この2人らしいなぁって思う。
私は、朝ごはんを食べるため、リビングに向かった。
リビングには、ママしか居なかった。
「あれ?パパは?」
「まだ寝てるわよ~」
「珍しいね」
「そうなのよね~。何かあったのかしら?」
仕事で疲れてるのかなぁ。
「昨日あんなに激しかったのに」
「またかよ!!」
この色ボケ馬鹿夫婦は頭は良いのに、お互いの愛情表現は異常なのだ。
体力さえあれば夜な夜な、夫婦の営みを行っている。
その内、弟か妹が出来るんじゃないかってほどに。
「そういえばあんまり聞いたことなかったけど、永遠って弟か妹って欲しいと思うの?」
マジで出来るのかなと思ってしまう。
でも、弟か妹ね~。
う~ん・・・。
「別に良いかな。パパとママのおかげで寂しい思いはしてないし、それにティターニアも居るしね。」
正直、私はこのままがベストだと思う。
パパとママの愛情を独り占めしたいというのもあるけど。
「そっか。永遠が言うならこのままで良いのかもね。じゃあ避妊はちゃんとしなきゃ」
「娘に言う話では無いと思うの」
私の憧れの女性は、ママなのだがこういう所は残念だなと思ってしまう。
でも、こんなママだから私は幸せに過ごせてるのかも。
「ふぁぁ~。おはよう」
パパが起きてきた。
「おはようパパ」
「おはよう悠」
「ああ、二人ともおはよう」
寝起きのパパはただでさえ細い目がもっと細く見えてしまう。
それに私もだが、寝起きはなぜか機嫌が悪そうに見える。
でも、そんな姿が可愛らしくとも思える。
「う~眠い」
「ほら悠。目を覚まして。はい紅茶」
「ありがとう。燈花」
「うん」
なんかほわほわした雰囲気だ。
この二人を見ていると幸せな家庭だなってつくづく思う。
「ん?永遠どうかしたか?」
「ううん。なんでも。パパみたいな人と結婚したいなと思っただけ」
「そうか」
「うん」
「永遠の男の趣味は私に似てるのかしらね」
「そうだろ」
本当にママが羨ましいなぁ。
昔、パパとママの出会いの話を聞いた事があるけど、壮絶なものだった。
いや、高校生の思い出話にしては殺伐としてるなとは思ったけど、その出来事が二人をここまで導いたのだから悪い事ばかりでもないのだろうと私は思っている。
「そういえば、永遠。夏休みはいつからなんだ?」
「う~んと、7月24日からだから、来週からかな」
「そっか。夏休みはどこか旅行に出かけるか」
「うん!!」
「良いわね。どこに行く予定?」
「そうだなぁ。燈花、夏休みは何か予定はあるか?」
「無いよ~」
「そうなのか」
「うん」
私は、はっきり言って友達と言える人は居ない。
部活も辞め、仲の良い人も居ない。
所謂ボッチというやつだ。
でもまあ、別にコミュ障というわけではない。
ただ、顔色を窺って周りに合わせるような流れが大嫌いなのだ。
そんなので自分を押し殺す必要があるなら私は、一人を選ぶ。
「じゃあさあそこに行こう」
「「あそこ?」」
「燈花も知ってる場所だぞ」
「ん???」
「ねぇどこなの?」
「あの伝説の首無しライダーも泊った旅館だよ」
「ああ!!ステラと出会ったところの!!」
「あのステラさんと出会った所!?」
ステラさんとは、パパとママの友達であり、私にもよくしてくれているお姉さん的存在なのだ。
その正体は、元首無しライダーでデュラハンと呼ばれる精霊さんなのだ。
「ああ。その旅館に行こうぜ。永遠もいつかは連れて行きたいと思ってたからな」
「そうね。あそこも結構いい所だもんね」
「楽しみ!!」
「ああ楽しみにしてろ。だから学校頑張って行ってこい。」
「まさか聞こえてた?」
「顔を枕に埋めても、隣の部屋なら聞こえるぞ」
私の悲痛の叫びは、パパにも聞こえてたらしい。
「でもどうしても行きたくない時は言えよ」
「良いの?」
「俺にもそんな時期はあったからな。俺からしたら、やる事さえやってれば何にも文句は無いよ」
「そうね。永遠は、私たちに似て頭も良いからね。私も中学の頃は微妙だったから、サボった日もあったわよ」
パパはともかくママもサボるとかしてたんだ・・・。
「うん。でも、とりあえず今日は行くね。夏休みの宿題とかももうそろそろ分かるから、それだけは聞きに行ってくるね」
「おう」
「ええ、頑張っておいで」
「うん!!じゃあそろそろ行くね」
「ああ」
「うん。じゃあ」
「「行ってらっしゃい」」
「行ってきます」
「いやぁ、俺たちの愛娘は立派に成長してるねぇ」
「そうだね。立派に育ってくれて嬉しいわね」
「ふんふ~ん♪」
『機嫌が良いな』
「勿論だよティターニア。だって旅行だよ~」
『旅行なら昔から行ってるだろ』
「それでもだよ」
『そうか』
「うん!」
夏休みを楽しみにしつつ私は学校へと向かった。
キーンコーンカーンコーン
「ふぁぁ~。ようやく終わった・・・。」
今日も授業はいつも通り可もなく不可もなくと言った感じに終わった。
「帰ろ・・・」
「永遠ちゃーん」
誰かが私を呼んでる気がする。
「黒崎永遠ちゃん」
「はぁ・・・。何でしょうか先生」
私を呼ぶこの人は、神崎爽夏先生。
昔、パパとママに仕事を依頼した事があるらしく、それから仲良くしているみたいだ。
「ちょっと手伝って欲しいことがあるんだけど良いかな」
「忙しいのでこれで失礼します」
「待って!!お願いします。永遠様」
「はぁ。何をすればいいんですか」
「この荷物を職員室まで運んでくれないかな?」
「分かりました」
神崎先生の荷物を運ぶ手伝いをする事にした。
何だかんだ言ってこの先生は、良い人だと思う。
生徒には真摯に対応しており、いじめは絶対に許さない。
それに、誰かが努力している所を邪魔するような人には、手を差し伸べない。
先生からするとどうなのかと賛否両論あると思うが、私は良い人だと思う。
「先生って誰か憧れている人とかいるんですか?」
「もちろん居るよー」
「そうなんですね。その人の影響で教師になったんですか?」
「そうだよー」
「なるほど」
「まあ永遠ちゃんのお父さんの黒崎悠さんだけどね」
「そうだったんですね」
何となく予想出来ていた。
はっきり言ってパパもどうでもいい人には手を差し伸べない。
ましては他人の努力を邪魔するなんて、多分ぶち切れ案件だ。
まあ私でも切れるとは思うけど、パパもそれにママも絶対に許さない人だ。
それを憧れた先生がこの人だ。
「にしても永遠ちゃんも大きくなったねー」
「まあそうですね」
「燈花さんに似て美人に育ってて、先生嬉しい」
「ありがとうございます」
先生と話してるうちに職員室についた。
「ここで良いですか?」
「うん。ありがとうね」
「いえ。じゃあ私はこれで」
「永遠ちゃん」
「はい?」
「これお礼」
お礼として渡されたのは、チョコだった。
「永遠ちゃんってこれ好きだよね?」
「まあそうですけど、よく知ってますね」
「まあね。悠さんもこれ好きだから」
「あーなるほど」
「これでも昔は悠さんのこと好きだったのよ。もちろん異性としてね」
「それを言う必要ありました?」
実際、パパは年下の女性にモテる傾向にある。
本人は否定しているが、目の前のがいい例であり、他にも何人か心辺りがある。
「まあ今は、悠さんの家庭を守るために私は私に出来ることをするの。もちろん永遠ちゃんの支えにもなるよ」
「ありがとうございます」
「うん。じゃあ今日はありがとうね。気をつけて帰りなさい」
「はい」
「あっ、そういえば」
「はい?」
「最近、夕方になると変なのがうろついているみたいだから気をつけてね」
「変なの?」
「うん。変なの」
「はぁ・・・。分かりました」
「うん!分かればよろしい。それじゃあまた明日ね」
「はい。失礼します」
私は先生に見送られ、帰路に就いた。
帰る途中、私は先生が言ってたことが気にかかっていた。
「変なのってなんだろう・・・」
『わざわざ変なのって言ってるのが気にかかるな』
ティターニアも気になってたみたいだ。
『あの人間は少なくとも、怪異の事を知ってるからこそあの言い回しは気になるな』
「そうなんだよね」
『ここ数日この町で何かしらの気配は感じている』
「確かにそれは私も感じてる」
私は、パパの力の影響でそういった気配を感じる能力に長けている。
それが生きているものに対してもだが、私は死者の気配も感じ取れる。
「ただの霊の気配じゃないんだよね・・・」
『なるほどな。だとしたら確かに警戒した方が良いかもな』
「そうだね」
帰ったらパパに聞いてみようと思い、家を目指した。
カツン・・・カツン・・・
「ねぇティターニア」
『ああ分かってる。何か居るな』
「やっぱりそうよね」
何かが後ろにいる。
気配からして、多分人ではないだろう。
カツン・・・カツン・・・
近づいている。
「ティターニア」
『ああ』
「逃げるよ!!」
私はそれから全力で走った。
だけど背後から気配が消えない。
「はぁはぁ・・・。きっつー」
『それはただの運動不足だろ。それにほれ後ろに居やがる』
「ひゃっ!」
後ろに立って居たのは、赤いロングコートに赤いヒール。
髪は長く、マスクをしていた。
恐らく女性だろう。
「あ、あの・・・」
『・・・』
「暑くないんですか?」
今は7月。
夏休みももう間もなくといった時期にマスクにコートなんて熱中症になるんじゃないかなと思った。
『いやツッコミどころはそこじゃないだろ』
「だって今日だって最高気温は30℃は余裕で超えてんだよ!!心配になるわよ!!」
『絶対こいつ人じゃないだろ!!』
ティターニアと言い争っていると、赤い服の女はマスクに手をかけた。
『ねぇ』
私とティターニアは、その女から距離を取った。
『私綺麗?』
女がマスクを外した。
その素顔は、口が耳くらいまで裂けていた。
「まさか」
『ああそのまさかだろう』
その姿は有名な都市伝説の女だった。
「口裂け女」
『ねぇ私綺麗?』
口裂け女、この怪異のルーツは非常に様々である。
古いものは江戸時代に遡るもあるが、整形に失敗し理性を失った女性という説もある。
対処法もバラバラで確かなものは無い。
「お綺麗ですよ」
とりあえず様子を見ておくか。
『そう・・・。じゃああなたもお揃いにしてあげる!!』
どうやらあまり意味は無かったみたいだ。
鋏を構えこちらに突っ込んできた。
「ティターニア!!」
『分かってる!!』
ティターニアは姿を変え、私のブーツとなった。
「じゃあ行くよ」
『ッ!!』
ブンッ!!!
口裂け女の鋏が私の頬を掠めた。
「危なかった。本気でお揃いにするつもりね」
『油断するなよ』
「分かってる。じゃあ今度は私から」
私は口裂け女の懐に入った。
「くらえ!サマーソルト!!」
私の蹴りはそのまま口裂け女の顎にクリーンヒットした。
「さてどうかな・・・」
『ア・ア・ア・ア・』
「まだ動くみたいね。それじゃあ」
ドゴンッ!!
さらに追い打ちで顎に回し蹴りをお見舞いしてやった。
「もうそろそろ終わりにして欲しいな」
『アアアアア!!!!』
どうやらお怒りのようだ。
「美人が台無しだよ。ティターニア、とどめと行こう」
『分かってる』
私は右足に力を込め、口裂け女へと向かった。
「くたばれ!!」
ドゴンッ!!
私は口裂け女の脳天を砕く勢いで足を振り下ろした。
シュゥゥゥーッ
どうやら口裂け女は消滅したみたいだ。
「よいしょっと。じゃあ帰ろうかな。ティターニア、今回もありがとう」
『気にするな』
「はぁ・・・。怒られるかな」
そうして私たちは、ようやく家に帰る事が出来た。
「ただいま・・・」
恐る恐るリビングへ向かった。
「永遠ちゃん」
「はい!」
ママだ。
ママが呼んでる・・・。
「遅かったけど、何かあったの?」
「じ、実は先生に頼まれて荷物運ぶ手伝いをしてました!!」
「うん、それで」
「はい?」
「いやそれで何で遅れたの?」
「いやだから・・・」
「な・ん・で!遅れたの?」
ひぇぇぇ・・・
ママをこれ以上怒らせる前にさっさと白状しよう。
「・・・口裂け女と戦ってました」
「またそんな危険な事したの!?」
ママは私をなるべく危険から遠ざけようとしている。
まあそれは当然だろう。
それは私も重々承知なのだ。
「全く・・・」
ぎゅっ
ママが私を優しく抱き着いてきた。
「永遠、私はね。永遠の事が心配なのよ。あなたは悠にとても似ているから、無茶をするんじゃないかってね」
「ごめんなさい」
本当に心配だったんだなと思うと申し訳なくなってきた。
「良いのよ。あなたが無事ならね。だけどね本来怪異ってのは、自分から関わるものじゃないの。それだけは分かってほしい」
そう怪異は、身の回りにあって本来は干渉できないものだ。
だけど、体質上それを普通の人よりも過剰に反応してしまうため巻き込まれてしまう。
この辺はパパ譲りといった所だった。
「次は気をつけます」
「ええ。気をつけなさい」
「うん。そういえばパパは?」
「自分の部屋で仕事中よ。今日も依頼があってね。今、報告書をまとめてるところなの」
「そうだったんだ」
よく働くなぁと思うが、それよりもパパとママがこんなに頑張っているのに街には人に害を与える怪異は存在する。
「ねぇどうしてママとパパはこの仕事をやっているの?」
前々から気になっていたのだ。
はっきり言って誰にも注目されないような仕事をしてなにが楽しいのかなって。
「それはね、私は悠の支えになりたいと思ったからかな。悠は違うかもしれないけど」
「そうなの?」
「最初は私からこの仕事をしたいって言ったの」
「そうだったんだ」
初めて知った事だった。
「うん。そしたら悠とお義母さんは賛成してくれて、この仕事を二人で始めたの」
「パパはどうしてこの仕事をしてるんだろう」
パパはあんまり自分の事を話したがらないような気がする。
「それはね、直接聞いてみたら良いかもしれないわよ」
「そうなの?」
「ええ、ちょうど来たところだし」
「ほぇ?」
気が付いたらパパがリビングに入ってくる瞬間だった。
「ん?何の話だ?」
「永遠がどうしてパパは探偵をやってるのか知りたいんだって」
「ママ!!」
何で勝手に聞いちゃってるの・・・。
「何でって・・・何でだろう」
「悠~?」
「冗談だよ」
ママが怖いよ・・・。
「それで何でやってるかだったな。まあ見てみぬふりは俺にはできないからな。巻き込まれ体質とは言ったが、この体質のおかげで燈花とも仲良くなれたし手助けもできた。最初は燈花のためってのが大きかったが、今は、どこかで異質なもので苦しんでいる人を助ける力があるのに、見てみぬふりなんて永遠からしたら自慢のお父さんとは言えないだろう。だから燈花と永遠に向けてかっこいいお父さんであるためにこの仕事をやっているんだよ」
「出たわね。年に数回かっこいい言葉を言う例のあれ」
「んー。答えになって無いような気がするけど、まあ今は良いよ。それにもうパパとママは私にとって自慢できる存在だよ」
本当にいい両親だなぁとつくづく思う日だった。
「そういえばなんだが、俺の部屋から下着が消えている気がするが何か知らないか?」
「「(ギクッ!!)」」
「おい、何で分かりやすく二人とも動揺しているんだ・・・」
私がこっそり使ってるのがバレたのか!!
黒崎永遠の事件簿 MiYu @MiYu517
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