第5話

仕事場に戻るともう昼休みは5分で終わる時間になっていた。僕は慌てて仕事にとりかかる。

スーパーの彼女。僕のことを覚えてくれただろうか。覚えられていたとしたらきっとお客の一人ではなく下手なナンパをしてきたかっこ悪い男性としてであろう。後悔を胸に仕事にとりかかる。



終業までには今日の進まなければいけない仕事はなんとか終わることができた。

僕は荷物をまとめ会社を出る。

外に出るとアスファルトは夕焼けに照らされ、薄暗くも儚く光を反射させていた。仕事の疲れと昼の後悔とで力なくただ家路を歩いた。

「あの、すいません。こんばんは。」

後ろから女の人の声が聞こえた。

振り向くとレジの店員であるあの女性が立っていた。服装は普段着で店員の姿ではなかった。

僕は驚きのあまり、はいといらない大きな声量で応えてしまった。

「急にすいません。今日スーパーで声をかけてくださった方ですよね。家に帰る途中なんですけどたまたま見かけて。さっきはすいませんでした。もしよかったらカフェいきますか?あ、いえ、嫌だったらいいんです。すいません。」

その女性は早口にそう話した。

逆にそれが僕に落ち着きを取り戻した。

「あ、いえ、嫌ではないんですけどもうこの時間だとカフェ、空いてないと思います。こちらこそさっきは急に誘ってしまってすいませんでした。」

そう言い僕は紙とペンを出し、自分の電話番号を書いて女性に渡した。

「もしよかったら、僕の電話番号を書いているので電話ください。週末は休みなのでもしお休みが合えばカフェにいきましょう。」

彼女は軽く口角をあげてそれを受け取ってくれた。

「はい、また電話させていただきます。足を止めさせてしまってすいません。それでは。」

女性はそう言い、僕とは反対の方向へと歩いていった。僕は嬉しくてついその場で声をあげそうになったがぐっと我慢して家へと帰った。



家へ帰ると僕はすぐに布団で横になった。

そうしないと興奮のしすぎて暴れてしまいそうであったからだ。彼女は僕とカフェに行くことについて嫌ではなかったのだ。それどころか道で見つけた僕を自ら声をかけてくれたのだ。嫌どころか乗り気ではないか。いつ電話をしてくれるのだろうか。カフェはどこにいくのがいいのだろうか。そんなことを考えながら、僕は彼女のことで頭をいっぱいにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

同色 三日月 @mikazuki666

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ