第4話
僕はその日、朝から一度しか会ったことのないスーパーの店員を無意識的に想い浮かばせながら仕事をしていたものだから小さなミスが多く、作成した書類の確認の際に多くの手直ししなければいけない箇所が見つかった。僕は午前中に慌ててその手直しにかかっていたが中々終わらず昼休みに入ってしまった。
昼休みにその手直し終わらせた方が効率的に良いと分かっていたがそのスーパーの店員にもう一度会いたいという気持ちが脳裏に強く訴えかけられ僕はそれに従うしかなかった。
周りの皆は各自お弁当を出したり、外にでたりと室内がざわめき出す。僕は昼ごはんを買うという体でそのスーパーへと向かうことにした。
席を立ち、茶色のいかにも使い古してあるといった風合いを醸し出している革の長財布だけを持ち仕事場を出た。ここからそのスーパーまでは徒歩で10分程度でそう遠くはない。早歩きでいけば昼休みの間に書類の手直しまでできるかもしれない。と考えながら僕は急ぎ足でスーパーへと向かった。
スーパーに向かうと昼時だからか少し店内が混んでいた。僕は昨日の店員がどのレジにいるのか、はたまた品出しに出ているのか、そもそも出勤しているのかも分からないのでとりあえずレジの辺りを遠くから人を避け、隙間からなんとか見た。
するとその店員は昨日と同じ場所のレジで次々とお客の商品を会計していた。
僕は見つけるとすぐにレジを離れ惣菜コーナーに向かい、適当にパンとおにぎりを手に取りレジへと向かった。
前に何人か並んでおり、僕はその間レジで会計をただ単に済ませていいものか、何か小さなアクションを起こせないものかと考えていた。しかしその間にも前にどんどん進んでいく。そして僕は彼女の前まできた。彼女は1点、2点と商品を見つめ他のお客となんら変わらなく対応をしてくれる。
そりゃ一度出会っただけのお客の顔など覚えているはずがない。
彼女は会計を終え、合計の金額を僕の顔をちらっと見て伝えた。その時僕は彼女を数秒見つめ、何か言わなければと思った。
「あの、今度時間がある時でいいのでカフェに行きませんか?」
彼女はレジから僕に視線を変え、じっと見つめてから眉の端を下げた。
「あの、仕事中なので」
彼女は小さくそう言った。その顔はあからさまに困っているようだった。
「すいません、急にこんな、困りますよね。」
僕は素早く現金をトレイに置き会計を済ませ、おにぎりとパンを持ち店を出た。
僕は咄嗟に出た言葉を彼女にぶつけて困らせてしまった。普段ならこんなナンパのようなマネしないのに。
僕はそのことを悪く思うと共に自分に対しいらだちを感じた。ナンパだとしてももう少し良いアプローチがあったのではないか。なんて浅はかな行動だったんだろう。あんな言い方では誰でも困らせてしまうであろう。せめて王道ではあるが電話番号を書いたメモを渡すであるとか、その方がよっぽどいいし可能性だってあったのではないだろうか。
僕はゆっくりと仕事場まで歩いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます