第11話 幹部登場
ぴちゃりぴちゃりと水の音が足を動かすたびに鳴り、周囲へとこだまする。ここは洞窟の地下三階層。外気より冷たい風が微かに吹き抜けているここでは本来真っ暗闇となっているはずだが、数メートル置きに灯りがあるのを見るに、ここが無人ではないことを察することができる。
それがかつて地下資源を掘り起こすためにつけられたのか、はたまたここを住みかとしている浮浪者がいるのか定かではない。そんな場所にわざわざ来た理由はというと、いわゆるバイトのようなものだ。
「そろそろ教えてくれませんかねえ、マキナっち」
それは昨日、彼女の下僕になった後の事。早速ではあるが頼みごとを任されたのだ。東の洞窟の調査・解析をするようにという話だった。成功報酬も出すとのことだったので、これも一種の社会勉強だと自分に言い聞かせて調査に出向いたわけだが、いまだに洞窟の何を調査するかわかっていない。
「実はその洞窟で目撃情報があっての。確証はまだないんじゃが危険なモンスターが出るらしいんじゃ。見つけたら倒して、解析のために持ってきてくれ」
いわゆる調査クエストってやつだろうか。珍しいモンスターならドロップアイテムも期待できる。他の冒険者とかに先を越される前に倒してしまいたい。だがもしも相手がでかいモンスターだったなら運ぶのが難しくなるが大丈夫だろうか。
「どんなモンスターが出るんだ?」
「魔王軍八界門のユーコンが出るらしいのじゃ」
聞き覚えのない単語が含まれているが、つまりは新種のモンスターが出るから捕まえてねって任務ではなく、幹部クラスが出てくるけどサクッと倒してねっていきなりハードル高すぎるだろ。はじめてのおつかいで挑戦する難易度じゃない。
「八界門ってどれくらい強いんですかね」
一応聞いてみる。護廷十○隊とか○影みたいに実力トップの集団だと困るけど、王下○武海みたいに実力がバラバラな可能性もある。頼むから道化のバ○ー来てくれ。
「まず魔王がおる。その下には右腕と左腕と呼ばれる強力なやつらがおって、その下に三聖将という幹部がおる。その下に四天王、その下に五神柱、その下に六幻衆、その下に七魔星、その下に八界門となっておる」
「幹部多すぎだろ!そんなにいっぱいだと威厳とかカッコよさとか激減するわ!」
「管理職だと残業代が支給されんからな。おそらく人件費削減のためじゃろ」
「なんてシビアな世の中なんだ!というかどこからの情報だよ!」
「ネットで魔王軍の元幹部を自称するやつが言っておったわ」
「ネットとかあるんだ魔王軍」
上下水道が整備されてないのにスマホは使える現代のアフリカ並みにチグハグしているこの世界、ステータスボードの機能として簡易なインターネットが利用可能らしい。最近では歩きステボが社会問題になっているとかいないとか。
魔王軍のホームページによると八界門のユーコンは今年になって内部登用で幹部になった中途採用の魔族らしい。自己紹介ページではバンドマンになるために上京したが自分の才能に限界を感じ、田舎に戻って就職したのが魔王軍だったらしい。
「その情報本当にあってます!?」
あまりにも現実的過ぎて信じたくなくなってきた。魔族の中で魔王軍って市役所とか自衛隊くらいの感覚なのだろうか。
「いいからとっとと倒してこい。安心せい、ユーコンは単身赴任じゃから妻子を倒す必要はない」
「そんなこと聞いて戦えるかっ!!」
これから倒す相手の家族構成とか聞きたくなかった。敵と向き合ったときにその後ろに親族がいると思うと罪悪感で剣を振るえるはずがない。AV見てる途中で、この出演者にも両親や祖父母がいて無償の愛に包まれて育ったんだと思うと股間のエクスカリバーを抜くのをためらってしまう。
「股間のエクスカリバーってなんじゃ?」
「今はそんな事どうでもいいでしょ。何か戦わなくていい方法ないんですか」
すでに洞窟の奥の方まで進んでしまっている。遭遇するとしたらそろそろのはずだ。撤退するなら早いとこ判断しなければ戦闘になってしまう。ここまでの道中でも小型のモンスターとの遭遇戦はあったが、言葉も通じないケモノのようだったから何も考えずに切り伏せたが人の姿ならどうしていたか。
通信先のマキナは王都にある自身の工房でくつろいでいるため面倒くさそうに唸りながら考えているフリをしている。他人事だと思って薄情なやつめ。
すると前方に部屋から物音が聞こえた。現在は洞窟の地下四階層。凸凹な通路の左右に扉があり、簡素な部屋がいくつもあるのが特徴的だ。中をあらためたら所々壊れているが以前使われていたであろうベッドがあったことからこの階層は人が休むための設備が整えられていたと考えられる。
そんな部屋の一角で物音が聞こえたということは、誰かが休憩するために使用しているということである。マキナの説明によると、かつては冒険者がモンスターを狩るために利用していたこの地は、モンスター出現率が低下し、効率が悪いとの理由で放置されてからしばらく経っている。
ではいったい誰が奥の部屋を利用しているのか。俺はドアに耳を押し当て中の様子を探ることにした。
「八界門の私が君の昇進を推薦してあげよう。その代わり、今日の事は秘密だよ」
「でもユーコン様、奥さんいるんじゃ……」
「それは大丈夫さ。今は単身赴任中だし、この洞窟も誰も来ないからバレないよ」
「ああ、ユーコン様っ!そんなところ触っちゃ……!」
「オラァ!ユーコン覚悟しろや!!ぶっ殺してやる!!!」
もう罪悪感とかは微塵も持ち合わせてはいなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます