第4話 負債総額
目が覚めると牢の中だった。昨夜は兵士に捕縛・連行された後、硬いベッドと一枚の毛布、そして冷たい食事を与えられた。これが国を代表する勇者への最大限の支援ではないことを願いたい。
外の光が差し込まない地下牢は薄暗く不気味ではあるが、小さな明かりが常時灯っていた。睡眠をとる時は邪魔な存在だと感じていたが、朝か夜かもわからないこの場における唯一の明かりは無くてはならないものである。
「そういえば…」
どうするべきかわからない今の状況の中で、唯一の手掛かりがまだ手元にあったのだ。俺はステータス画面を開き、小さすぎて読めないあの文字に触れながら、頭の中でとある業者の名前を唱え続けた。
「転生の事ならお任せください。こちらフューチャーグロースカンパニーです」
本当に繋がるのか不安ではあったが、ついにコンタクトをとることに成功した。これが諸悪の根源である
「えっと、昨日転生しました白鳥一弦あらためクレイン・ホワイトリーという者なんですが、伺いたいことがありまして連絡いたしました」
「白鳥様ですね。少々お待ちください」
異世界転生をしたとは思えないほど現代っぽい会話をしている。向こうでは現代人らしくパソコンとかコピー機を使っているんだろうか。
「白鳥様、確認したところ契約がございましたが、契約内容のご確認からでよろしいでしょうか?」
「はい、お願いします」
契約などした覚えはないがこちらは既に転生してしまっている身。元に戻れないのなら現状を受け止めるしかないのでまずは落ち着いて話を聞くとしよう。
「白鳥様は一度目の転生なので、こちらに関しては特に費用の請求はございません」
そうなのか、助かった。費用無料はありがたい。って、あれ?
「……こちらに関しては?」
「はい。弊社ではステータスポイントの貸与をしております。白鳥様は自身のステータスをご覧になりましたよね?」
嫌な予感がする。体力・攻撃力・防御力・魔力・抵抗力・早さ。6種のステータスすべてが999という数値を叩き出している。まさかこれを俺が借りたというのか。
「現在白鳥様は一つの能力値を平均950
「つまり950×6で5700P借りてるってことか」
「フッ……」
彼女は俺の発言を聞き、馬鹿にしたように鼻で笑った。おかしなところがあっただろうか。計算はあってるはずだが…。
「白鳥さまぁ。あなたよくそんな態度でいられますねぇ」
今度は馬鹿にするどころか、あからさまに相手を見下した言い方をしている。いくらステータスを貸してるからといって、そこまでされる筋合いはない。
「いったい何がおかしいって言うんですか」
怒りは胸の中に沈め、あくまで冷静に問いかけた。すると彼女は呆れたようにため息をひとつ吐き出し、こう続けた。
「ステータスを5700P借りている。それは間違いありません。」
元々借りるつもりなどなかったが、借りてしまったならば仕方がない。だが他に何があるというのか。
「白鳥様。いや、クレイン様は現在何歳ですか?」
「15歳ですけど……………!!」
それに気が付いた時、思わず身震いをした。俺は昨日まで白鳥として生きていて、突然の死を経て15歳のクレインに転生したと思っていた。それこそが間違いだった。転生は15年前に始まっていたのだ。
「あなたはステータス5700Pを15年間借り続けた。そしてそこには当然利息が発生します。年利20パーセントで元金5700P。経過年数15年で計算すると…」
「現在のあなたの負債総額は、87820P。現在の総ステータスの約15倍です。」
耳を疑った。借りた覚えのない借金が15年の時を経て恐ろしいほどに膨れ上がっていた。それは元日に食べて余った餅が、六月にカビまみれで発見された時以来の衝撃。正直なところ数字が大きすぎてあまりピンと来ていないが、大変なことになっているのは確実だ。
「あ、あの、返済期限っていつまででしょうか…?」
先ほどまでの威勢は吹き飛び、腰を低くして伺った。
「来年の末までとなっております。ただし今年の年末を越えると…」
「越えると……?」
「現在の87820Pにさらに20%の利息がつきます」
するとつまり、87820×1.2=105384Pとなるわけで、利息分だけでも17564P。俺三人分。勇者三人分。世界みっつ救えるねラッキー!
思考がすでに冷静ではなくなっている。冷静になればなるほど気が遠くなるような額なのだが、この状況を覆す方法はないかと必死に模索する。
「いや、待てよ。俺は昨日の覚醒の刻の後にステータスを受け取ったはずだから、借入期間の15年は不当じゃないのか?」
「それは違います。あなたが契約した日から実際に15年経過し、その間に隠しステータスとしてずっと貸与していました。実際この期間、我々の手元には5700Pはありませんでしたから」
受領したのは昨日だから経過年数に換算されないと主張する俺の意見は、受領したことに気づいていない俺の過失だと指摘された。だが俺は気づいていないのではなく知らなかったのだ。
「そもそも俺には契約なんてした記憶がないんだ。担当した従業員に確認してくれ」
「あなたが覚えてなくてもこちらには契約文が残っています。それに当時の担当者はすでに退職したのでもうおりません」
物的証拠がある限りいくら俺が知らず存ぜぬを貫いても意味がないようだ。酔った勢いでサラ金を利用したようなもの。記憶の有無は重要じゃないということか…。それにしても担当者の退職とは、15年という月日の長さを感じさせる返答であった。
自覚ががなかったとはいえ、現状の俺は「借りたものを15年間返さなかった男」という肩書になっているのだ。一国の勇者に選ばれた者としてそんな不名誉な肩書はすぐにでも返上したい。
俺は覚悟を決めた。
「連帯保証人にルカ王女を追加ってできます?」
持つべきものは資産家の親族だ。
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