夕暮れ色に染めて

『好きです。付き合ってください!』

 そう言われたのは、自慢ではないけれど何度もあった。好きではない人に告白されても、ドキドキしなかったし、簡単に断ることが出来た。なのにどうしてだろう。君に言われたそれだけは、とても落ち着かなかった。

 そして今まで貰ったことがなかったチョコレートに、甘さと緊張が詰まっている事が分かって、これ程嬉しい気持ちは初めてだった。


 三月一四日の今日、ホワイトデーはあっという間にやって来てしまう。いつもはただ友達と遊んでいて、自分には全く関係のなかったその日は、彼女と付き合って一ヶ月の記念日。僕にとっても彼女にとっても、ずっと記憶に残る最高の日にしたくて。作ることは出来ないけれど、笑顔を咲かせてほしいから、彼女の好きなものを選ぶ。

 あの日に見た夕暮れ色にラッピングされた、甘い甘いミルクチョコレート。

「ハッピーホワイトデー! 僕からのチョコレート、貰ってくれると嬉しいな」

 まだ空は、ふわふわで透明な水色を全体に振り撒いている。だからあの日見た空の色だと気付かないかもしれないけれど。そう思ったのに。

「わあっありがとう! この色、どうしてもバレンタインを思い出しちゃうね」

 頬を赤く染めてえへへ、とはにかむ君を見てしまえば、残る後味は甘酸っぱい。

 覚えててくれてありがとう。

 そう、君に聞こえないようにぼそっと呟いた。

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