恋心も雪に溶けて

「好きです。付き合ってください!」

 場所は体育館裏。頭を下げて爪先を見る。そんな告白のテンプレート。チョコを渡してみれば、バレンタインのそれに早変わりする。


 行事ごとに興味はなければ、恋愛もしない。青春とは程遠いと言える、何となくの高校生活一年目。

 そんな私が珍しく好きになった相手は、この上なく私とは正反対の明るい性格や笑顔の持ち主。地味で目立たない私と釣り合うかどうかなんて、考えなくとも分かってしまう。

 初めは告白するつもりなんて到底なかったし、話し掛けることさえ憚っていたのに。いつの間にか。何故か。告白に至った。


 はっと我に返って目の前の君を見上げてみれば、真っ赤に染め上がった頬に、緩んだ口元、はにかむような笑顔。不覚にも可愛いと思ってしまって。それでも返事を貰えていないもやもやがあって。「あのっ」と口を開きかけたそのとき。

「こんな僕でよければ、喜んで」

 断られると思っていた私は、言うまでもなく放心状態。

「これからよろしくね」

 なんてとびきりの笑顔で言われてしまえば、この手からチョコを受け取られてしまえば、それはもう現実としか言えない。

「あっえーと、あの、こちらこそ、よろしくお願いしますっ!」

 戸惑いで慌ただしくお辞儀をすれば、ふふっと笑われてしまう。本当にこんなことがあっていいのだろうか。そう思ってしまう程、幸せな空間だった。


 昨夜に天から降り注いだ雪。朝はまだ溶け残りがあったのに。夕刻になればそれは消えてしまっていた。雪の溶けた水溜まりに反射していたピンク色の空は、まるで私と君の空間を、そして私の作った甘いチョコの味を、そこだけに閉じ込めたような色だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る