花が溶ければ、
白い部屋、白いベッドの上に一人、細身の女性が座っている。どう考えても健康には見えない彼女の肌も、白い。
「私の命も朽ちるから。終わりを迎えるその時は、君に見守られていたい」
その物言いは、もうすぐ私は死ぬからと。そう言っているのと同義だった。
樹氷とは、条件を満たす場合にのみ咲き誇る、冬限定で見られる氷の花のようなもの。春の訪れを感じる前に消えてしまう。そんな儚さがとても美しいんだ。私もあんな風になりたいと。いつの日か彼女はそう語った。
「既に美しいのに」
なんて口説いたところで、少し微笑むのみ。釣られてはくれない。
「私はね、人間らしくいるよりも、自然の中に在りたいの。もしかしたら、君には分からないかもしれないけれど」
自然の中に? と疑問に思う事は、白に隔離された空間にいる彼女を見れば、そうおかしなことでもないだろう。
「わざわざ理解しようとしなくていいの。少なくとも、私が生きてる間は無理だろうし」
「もしいつまでも無理だとしたら?」
「それはそれでいいよ。私は私、君は君。それぞれの価値観も違うでしょう? 君の好きなように解釈しておけば」
ふぅん、と相槌を打つと、君はこの話は終わりと言わんばかりに、窓越しから雪の降り始めた空を見上げていた。
季節は巡り、なんて事はなく、二ヶ月程が過ぎた二月。なんとも分かりやすい体調の変化は、まるで命の期限を示しているようだ。食事から点滴に変わり、起き上がる事もできない。細かった身体はさらに骨の形を濃く映す。眠る時間も長くなり、視線は交わせども話す事は少なくなった。ぴちゃん。終わりの足音が聴こえる。
そして冬も終わりを迎える頃。僕の手を握りながら冷えた空気に紛れて、一つの魂が消え去ったその時、溶けきった花弁の雫が、ぽつんと落ちた。
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