変わること
羨ましい。君にはたくさん友達がいて、いつも楽しそうで、頭が良くて、運動神経も抜群で、容姿も皆に好かれている。比べて僕は、友達は疎か家族とすらほとんど会話をせず、テストの点は平均前後、運動すればすぐ息が切れておしまいで、長い前髪の奥、分厚い眼鏡の中に見える目の下には大きな隈。誰が見ても分かる、良いとこなしのただのクズ。君と比べれば天地の差。いや、それ以上かもな。悔しい、悔しい悔しい悔しい。変わりたい。僕も、他人も見たことの無い僕に。でもそんなこと、意気地無しの僕にできるはずがない。……今までならそう誤魔化して、自分に嘘をついて諦めていた。
もう、それじゃだめだ。僕が僕であるために。変われるか、じゃない。変わるんだ。
決心した日から、そう一気に何もかもが変わることはない。それは今までの自分の行動で、充分に知っていた。
それでもただ少し、ほんの小さな一歩ずつ、着実に変わっていった。家族と挨拶以外にも学校のことを話してみたり、ゲームや読書の時間を朝にして早寝早起きしてみたり。重い前髪は切って、眼鏡もコンタクトに変えた。電車の中では少しだけ勉強してみて。駅まで通うときも自転車から歩きにした。
外見も内面も、いつも思い通りにはならないけれど、自分に嘘をつかずにいられるように、最大限の自分になった。
僕が羨んだ君は、目が合うと挨拶だけでなく、ちょっとした会話もするようになった。
「お前、すごい変わったよな。びっくりしたよ」
そんなことを言われる。
「僕は君がちょっと羨ましかったんだ」
自分を持つ君が、とてもね。
「え、俺が? へー、お前にはそう見えてたのか」
俺は意外にも繊細なんだぜ?
なんておちゃらけて話す。驚いた。僕の目には到底、そんな風には映りえなかったから。
「なら、案外僕たちは似たもの同士ってことかもね」
「ははっそうだな」
二人で笑い合うなんて、前までの僕は思いもしなかった。
変わるのは大変だったけれど、自分を見つけることが、幸せを見つけることができた。
望むように変わることは、そういうことなのかもしれない。
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