第4話 私の護り石(ナイト)
縁側だ。
縁側の向こう、庭の隅に絶対絶対何か居る。
アレはとっても良くない、障るモノだ。
だから決して近づいてはいけない、近づけてはならない。
心の奥の本能が、そんな風に激しく警鐘を鳴らしている。
が、それでも彼は相変わらずの和やかさで、漆黒に濡れた目を笑わせた。
「大丈夫ですよ紬さん。その為の僕、オニキスですから」
気軽な声でそう言って、彼は「よっこらせっ」と立ち上がる。
そして小さな声で何かを唱え顔の前で両手をパンッと合わせると――。
「えっ」
突然彼が煙に巻かれて、思わず驚き声を上げた。
がそれが晴れてもっと驚く。
「『オニキス』は護り石。悪い誘惑や欲望から主を護る、そんな役割を持っています」
そこにはスラリと背が高い金髪の、薄手の白いインナーにジーパン姿の優男が立っていた。
大学生だと言えば思わず納得するようなそのクオリティーは、もし彼にキツネの耳と尻尾が生えていなければ人間だと思ったかもしれない。
が、そのくるんと丸い
「オ、オニキス……?」
そう聞き返すと、彼は来てしまったアイツの方に一歩二歩と歩きながら言う。
「名は体を表すんです。だから僕は貴女を護るための護符。美緒様からその役目の為にそう名付けられたキツネなんです」
そして。
≪邪よ退け、ここは清浄なる領域ぞ≫
空間ごと歪ませるような圧を持った言葉がオニキスを中心として波紋の様に広がって、それに感化されたのか、邪なアレがこちらに飛び掛かってくる。
しかし青い火がそれを許さない。
近づいてくる邪に応戦し、あっけなくそれを焼き切ってしまった。
アアアアーッと言いながら消滅するソレを呆気に取られて眺めていると、オニキスが優男のままクルリと振り返る。
「大丈夫です、僕たちが居ます。貴女の事を護りますから」
その言葉とホワンとした笑顔が、先程話していたキツネの時の彼のイメージとひどく被った。
まぁ同じキツネなんだから当たり前と言えばそうなんだろうけど、私にとってはそのお陰でなんかとっても安心しちゃって、だから思わずフフフッと笑う。
「うん、じゃぁとりあえず宜しくね」
「! はいっ!」
私のよろしく宣言に彼はひどく嬉しそうな顔で笑う。
が、時間差で私は「うん?」となった。
「『僕たち』?」
さっき確かに彼は私にそう言った。
そう思って頭を捻ると、彼は至極当然と言わんばかりに「えぇ」と頷き、それから「……あ、そっか」と手をポンッと軽く叩いた。
そして後ろを振り返る。
そこに見えるのは先ほど邪なのが居た庭である。
私がご飯を食べたあの縁側であり、今は私が置いたままにしている紅茶のペットボトルとカバン以外には何もない。
しかし彼は言ったのだ。
「もういいよー!」
と。
「一体何が」と私は思った。
その答えは間髪挟まず訪れる。
「もうー、長いよぉー!」
そんな声と一緒に茂みから、ピョンッとキツネが飛び出した。
「ほんと、時間掛かり過ぎ」
縁側の端からのそりのそりとまた別のキツネが現れて。
「お腹空いたよ……」
近くで声がして振り返ったら、私の後ろにもう一匹。
「zzz……」
「おい、待ちくたびれて寝てるぞコイツ」
廊下からこちらにやって来たキツネがもう一匹の首根っこを掴んで引きずってきているが、運ばれている方はまだ眠りこけてる。
首の後ろの皮がちょっとビローンとなっているんだけど、全く気にならないみたい。
爆睡じゃん。
……って。
「え、ちょっ、ちょっと!」
「どうしたんです? 紬さん」
「『どうしたんです?』じゃないよ! 一体何匹出てくるの?!」
思わずそう声を上げると、オニキスが不思議そうな顔でキョトンとした。
「何言ってるんですか?こんなのまだ序の口ですよ」
「えっ」
「今は出かけてるのが居ますし、他の部屋にはジジババや子供たちだって居ますし」
「他の部屋っ?! えっ、一体いつから……」
「いつからって……最初からですよ。というか、私たちが居た所に紬さんが入ってきたんですから、どっちかというと紬さんの方がお客さんです」
えぇーっ?!
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