第2話 しゃべるキツネとエンカウント
どうして私?
っていうか、何故こんな所に?
そんな疑問が浮き上がる。
因みにこれ、出してみて気付いたんだけど多分お金とかじゃない。
多分中に入れている物がそれなりの立体物なんだろう。
膨れたその袋はかなり、形が崩れてしまっている。
思いの外ずっしりと重いその封筒を、私はまたゆっくりと開けた。
傾けてみると、サァッと何かが手のひらへと落ちてくる。
「キツネの石の……ネックレス?」
一応袋の中も覗いてみたけど、手紙の類は何もない。
手のひらの上にあるソレは、メロンソーダのように透明感がある緑の石で彫られたキツネに、首がから下げるとちょうどいい長さの金色のチェーンが付けられていた。
ただこのキツネ、ちょっとエジプト風というか厳ついというか……つまり一言で言ってしまうと。
「うーん、可愛くない」
少なくとも今年で25歳になる私が付けるには、ちょっと武骨過ぎる気がする。
「まぁでもなんか、ちょっと魔除けっぽい感じはするけどね」
カッと口を開いたソレは、見ようによっては威嚇しているようにも見える。
狛犬やシーサーなどで言う所の『阿』の顔みたい。
「でも……何でコレ?」
疎遠だった私に何かを遺そうとしてくれた事はとっても嬉しい。
けどどうせくれるなら、せめてもうちょっと華奢で社会人が普段使いしてもおかしくないようなやつをくれれば良かったのに。
思わずそう思ってしまう。
しかし彼女は昔から、柔らかい物腰でありながら周りの言葉や状況に流されるような人ではなかった。
何度両親から「君の悪い話を紬に吹き込まないで」と言われても結局彼女は自分の言動を変える事はなかったし、あれで結構頑固だったのだ。
そう思えば相手がどうというよりも、もしかしたらお祖母ちゃんがあげたかった物を入れてくれたのかもしれない。
そう思えば、このキツネもちょっとは可愛く……は残念ながら見えないが、それでもこれは、お祖母ちゃんが私をずっと覚えてくれていた証である。
それはただ純粋に嬉しいわけで、だから。
「――ありがとう、お祖母ちゃん」
そう呟いて、私は受け取る事にした。
と、その瞬間だ。
――チリン。
鈴の音が聞こえた気がして、何の気なしに振り向いた。
すると廊下に続く引き戸の端から、何かがこちらを覗いている事に気付く。
金色の塊だ。
――否、よく見たらケモノの耳としっぽが付いてる。
その上
これはアレだ、キツネだな。
動物園とか写真とかでは見た事ある。
器用に後ろ脚だけで立ってトコトコと……。
「……って、二足歩行?!」
キツネがいつの間にか家に入ってきていたとか、こんなに近くで野生のキツネなんて私初めて見たよとか、まぁこの辺田舎だから入ってきてもそう変な話じゃないのかもしれないけどとか。
そんな事より、慣れた様子の二足歩行の方がよっぽど気になった。
だから思わず声を上げちゃったんだが、そのせいで彼がピヤッと震え上がる。
多分怖がったのだろう。
「あー、ゴメンゴメン大声出して。怖くないよー、大丈夫。だからそんなに怯えないでー……」
思わずそう声を掛けたのは、別に「人語が通じるだろう」とか思った訳じゃない。
でも通じなくても例えば泣きそうな子をあやしたり、約束を守れたペットを褒める時には勝手に言葉が口を突いて出る。
それと同じ……のつもりだったのに。
「ほ、本当に?」
「しゃっ、喋った?!」
「ピヤッ!」
驚きにまた性懲りもなく大声を上げてしまい、その結果やはり彼を飛び上がらせる事になってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます