拝啓、お祖母ちゃん。貴女が遺した古民家で『お護り騎士』と出逢いました。 ~私を導くパワーストーンは人語をしゃべる妖狐くんです~

野菜ばたけ『転生令嬢アリス~』2巻発売中

第1話 たまたま見つけたそのポチ袋



 祖母はどうやら、人には視えないモノが見えていたらしい。


「今日はこれから雨が降るねぇー」

「えぇー? だってこんなに晴れてるのにー?」

「あぁそうだよ。今日はお狐様が嫁入りするみたいだからねぇ」

「何でそんな事が分かるの?」

「そりゃぁ、ご本人から聞いたからさ」


 そう言って祖母は屈託のない笑みを浮かべていたけれど、「凄いや!」とはしゃいで両親に言ったら「子供に変な事を教えないでください」とお祖母ちゃんが怒られた。

 

 雨は降った。

 だけど両親はまだ4歳の私に、頑なに「偶々だ」と言い含めた。



 その他にも祖母は、たまに近い未来に起きる事を言い当てたり、誰も居ないところで良く独り言を言うような人だった。

 彼女が告げる警告はよく当たるっていたけれど、時には人の死期まで当ててしまってたから、親戚が祖母を敬遠するのも今となっては理解できる。



 親に言われるまま連れられるままに私も、やがて祖母と疎遠になった。


 そしてその祖母が、つい先日亡くなった。




「――ここに来るのも久しぶりだ」


 遺品の整理のために訪れた祖母の家は、長い間来ていなかったにも拘らず何故か不思議と私に馴染んだ。

 ずっと知っている場所のように、はたまた昔のままの場所であるかのように。

 もう10年も経っているのに、不思議な事もあるものだなぁと何と無しに思う。


 だからだろうか。

 両親・親戚に押し付けられて「ちょっと面倒臭いよね」と思っていた遺品整理も意外や意外、思いの外楽しくやれている。



 昼下がり。

 没頭していて半ば忘れかけていた昼食を、少し遅れて摂る事にした。

 

 昼食は、残念ながら行きしに買ったコンビニおむすび。

 せっかくの昔ながらの縁側に座って日向ぼっこよろしく食べるっていうのになんとも風情の無い話だけど、人様の家に来てまで色々と作るのが面倒に思えたんだから仕方がない。


 別に料理が苦手という訳じゃない。

 本当に料理は出来るのだ。

 出来るったら出来るんだけど、ただ面倒だった。

 それだけである。



 モシャモシャとおむすびを食べながら、「はぁ」と小さく息を吐く。


 ――緑茶が飲みたい。

 唐突に、ふとそんな事を思ってしまった。

 

「買ってきたの、紅茶だしなぁー……」


 私に並んで縁側に置いてある飲みかけのペットボトルには、まだ茶色の液体が半分くらい残っている。

 だけど縁側・昼下がり・おむすびと来れば、緑茶が飲みたくなってしまったのだ。

 どうにかならないものだろうか。


 と、そう考えた所でふと、とある事を思い出す。

 

「そういえばお祖母ちゃん、緑茶派だったな……」


 私がまだこの家に出入りしてた時、お祖母ちゃんはいつも決まってまだ湯気の立つ湯飲みで緑茶をズズズッと飲んでいた。

 そんな昔を思い出し、「最近も飲んたかは分からないけど」なんて自分に見つからなかった時の言い訳をしながらよっこらせと立ち上がる。

 

 台所は、確かあっちの方の筈。

 そう思って行ってみると、割とすんなり台所は見つかった。

 そして緑茶の茶葉が入った茶筒も意外とすんなり見つかった。


 というか、探すまでも無かったのだ。

 綺麗に拭きあげられ、片付けられた台所のど真ん中に、何とそれがあったのだから。

 しかもその下に、ベージュ色の便せんでご丁寧に「緑茶」とまで書かれた状態で。



 もしかしてお祖母ちゃん、緑茶飲もうとしてたのかなぁ?

 確かお祖母ちゃんは、心筋梗塞で亡くなったと言っていた。

 

 どうやら胸に痛みがあったらしく、自分で電話して救急車を呼んで、搬送先で亡くなった。

 だからその可能性は大いにある。


 そう思えば、ちょっとしんみりしてしまう。


 そりゃぁ疎遠だったけど、私自身がお祖母ちゃんの事を嫌っていたなんて事は絶対に無い。

 それどころか、私は彼女が好きだった。


 

 そんな事を思いながら蓋を開ける。

 上手く密閉出来てたんだろう、筒を開けると小さくポンッと音がして茶葉の香りが鼻を掠める。


 そのいい匂いを嗅ぎながら、私は筒を覗き込んだ。

 そして思わずこう呟く。


「ポチ袋……?」


 三分の一くらいしか入っていなかった茶葉の上に、まるで何かを仕切ってでもいるかのように入っていた小さな袋は、お年玉を入れる時なんかに使うようなポチ袋だった。

 

 もしかして、こんな所にへそくりとか?

 そんな風に、ちょっとドキドキしながらそれを引き出す。

 と、そこには宛名がこう書かれていた。


 “つむぎへ”。


「え……」


 驚いた。

 だってそれは、紛れもない私の名前なんだから。


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