第190話 春休み ⑥

【深雪side 】


「 待ちなさい ! 」


振り返ると由利子先生がいた。

でも、由利子先生は手ぶらだった………竹刀か木刀があれば由利子先生が圧倒的に有利になるのに、どうして持って来ないのよ !


この時、私は せっかく助けに来てくれた由利子先生を心の中で責めていた。



「 フン ! この学校の教師みたいだけど、たかだか一人で何が出来ると思っているのよ !

怪我をしたくなかったら、そこで大人しく見ていなさいよ !」


勝字菜かてじなの言葉に由利子先生の雰囲気が一瞬で変わった。


「 へぇ~ 怒ったの ? アンタみたいな女教師が怒ったって恐くないんだよ ! 」


そう言いながら勝字菜が由利子先生にスタンガンを押し付けようと右手を向けた途端に由利子先生がギリギリでかわして勝字菜の手首を掴み投げ飛ばしていた。


バタン !


倒れた勝字菜だったけど直ぐに起き上がり


「 ケッ ! 合気道を得意にしていたから恐がらなかったのね !

だけど、手の内が分かったのなら合気道なんて恐くないんだよ ! 」


そう言いながら今度は、ナイフを振り回しながらスタンガンも交互に出して由利子先生に襲いかかっているんだけど……

それを由利子先生が無言で全て避けている。



「 ユリコぉーー ! 今、加勢に行きまーす ! 」


ハルト先生が学校に備えてあった不審者用の『刺股さすまた』を持って走って来た。


それに一瞬 気を取られてた勝字菜に由利子先生が、左手の手のひらを向けて右腕を脇に備えたかと思うと一瞬で勝字菜のふところに飛び込んで勝字菜を吹き飛ばしてしまった。


その衝撃でスタンガンやナイフを手から投げ出してしまった勝字菜は、流石に受け身が取れなかったらしくせきこんでいた。


「 もしかして、通背拳つうはいけんなのか 」


薫くん が驚いたように話ていた。



由利子先生は、油断せずに無言で勝字菜を睨んでいる。


その後、勝字菜がポケットから何かを取り出した瞬間に再び由利子先生が勝字菜に向けて踏み込んだ時に


「 カウンター で………


手に金属みたいなモノをつけて殴ろうとした勝字菜をクルリと反転して背中から勝字菜に当たり吹き飛ばしていた。


その衝撃が凄まじかったのか地面に数回叩きつけられた勝字菜は気絶したみたいで静かに成っていた。



「 今度は 八極拳はっきょくけん鉄山靠てつざんこうなんて、この学校は拳法の学校じゃないよね 」


薫くんが驚きながら言っているけど、由利子先生は変わらずに勝字菜を睨んでいた。


「 ………大丈夫でーす ! 気絶しているみたいだから救急車を呼びますね 」


ハルト先生からの言葉に、ようやく警戒をといた由利子先生を見て思ったわ。


絶対に由利子先生を本気で怒らせないようにしよう !


「 カッコいい~ 」

信太郎くんのつぶやきを聞いていたけど、この時は

由利子先生の恐ろしさで頭がいっぱいで気にしていなかった。



薫くんが電話したのか救急車の他にパトカーが来て、お巡りさんに事情聴取を受けたけど信太郎くんは、何故か上の空だった。


勝字菜も病院の後は警察が事情聴取するだろうから、とりあえずは安心してもいいかな。



信太郎くんが私の王子様だと分かったし邪魔な勝字菜も片付いたし万事オーケーよね !


これから私と信太郎くんの『メイク・ラブ』が始まるのだと

この時は信じていたのだった。

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