第6話 サロン ニオルリージャ
「それでは本日のお客様、ニオルリージャさんです」
マダム・ウィロウは記者たちにそう紹介した。勿論それを知っているからこんなに記者が大挙して押し寄せているのだが、まあ物事には形式というモノがある訳で。
拍手と共にニオルリージャが麗しい笑顔を浮かべてサロンに入ってきた。マダム・ウィロウに一礼すると勧められたソファに腰掛けた。
ここはマダム・ウィロウの私邸の中にあるサロンなのだが、彼女が有名人をここに招いて優雅な一時を過ごす事が話題となり、段々と記者がその様子を取材させて欲しいという申し出が増え、今や各雑誌の一面を彩る人気コーナーになってしまった。そのタイトルは彼女の意向で全社共通で「サロン・ド・ウィロウ」となっている。
「はじめまして」
ノームの老婦人であるマダム・ウィロウは礼儀正しくそう言った。
「よろしくお願いします」
ニオルリージャも再び礼儀正しく一礼する。マダム・ウィロウは芸能界の大御所どころの存在ではない。生きる伝説である。その経歴と性格も含めて。
「貴女、随分とお綺麗ね」
マダム・ウィロウは屈託なくそう言った。嫌味でも何でもない。
「…ありがとうございます」
ニオルリージャも遠慮がちに感謝を述べた。
芸能界を生きていく上での当然のルールとして「実績のある年長者には逆らわない」というモノがあるが、その具体例が正に彼女マダム・ウィロウなのである。彼女自身は天真爛漫なだけなのだが、その屈託のなさすぎる、想定外過ぎる質問は多くの招待客を困惑させる事でも有名だった。決して油断はできないのだ。
「貴女、ハーフエルフなんですってね」
周知の事だがなかなか本人に聞き辛い事をあっさり訊いてきた。
「…はい」
愛想笑いを浮かべながらニオルリージャが返事をする。
「失礼ですけど、おいくつなの?」
そう、このノームの老婦人はこういう風に何の遠慮もなく疑問に思った事はどんどん訊いてくるのだ。その質問には今までされた事がないものも多く、つい調子が狂ってとんでもない事を言ってしまったりする。それがこの企画の人気の理由なのだが。
「今年で142歳です」
嘘です本当は155歳です。大して変わらないけど。
「あら私よりお若いのね」
いくら何でもそりゃそうでしょうよマダム。
「エルフとしても随分とお若いのね」
マダム・ウィロウはニオルリージャをしげしげと見つめてそう言った。さすがに芸能界の生き字引であるマダム・ウィロウの表現は達者である。
ニオルリージャ程度の外観のエルフと言えば200歳前後のはずであり、そういう意味ではむしろ「老けている」と言うべきなのだが、逆に言えば200歳程に見えるエルフにしては「実年齢が随分と若い」とも言い表せる訳で。
「あはは…」
ニオルリージャは微妙な笑顔で追従的に笑ったが、その笑い声が消えないうちに
「貴女はお父様がエルフでお母様がヒューマンなんですってね」
矢継ぎ早やの質問である。これがある意味でこの企画の見せ場でもある。
「え、ええ」
ニオルリージャは笑顔をどう収めたものかと考える間もなくそう相槌を打った。
「失礼ですけど、どういった馴れ初めなの?」
うーむ本当にズバズバ訊いてくるなあこの人。
「ええと、父がヒューマンの母を好きになりまして…」
これは嘘である。というか実態はニオルリージャも良く分からない。
「でもあれでしょう?ヒューマンのお母様でしてらそんなには…ねえ?」
つまりすぐに死んでしまうのではないか?と言っているのだ。確かにその通りだ。
「ええ、物心ついたくらいにはもう母は…」
実際ニオルリージャはそのヒューマンの母の記憶が全くない。気がついたら後添えのエルフの母が居ただけであり、長い間彼女は自分がハーフエルフとは知らなかった。
「じゃあいろいろとご不便があったんじゃないの?」
不便すぎてやってられないからアイドルになったんです。とは言えない。
「確かに…いろいろと文化や生きていく不便が…」
と、良いかけてまたもマダム・ウィロウは別の事を言った。
「あら御免なさい私ったら踏み込みすぎちゃって」
そう言ってマダム・ウィロウは話題を変えた。
「今度は水着の絵画を発表なさるとか…」
マダム・ウィロウのマイペースな独壇場は続くのであった。
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