第279話 彼らが選択した惨劇④
言い淀んで、涙を流す。
涙が白い花を産み、地面を侵食する。林や草原に白い花が咲き乱れた。
『おねえちゃんは気づいてるよね。私の望み。本当は復讐だったってことに』
「そうだろうな。殺されたんだから恨むはずだ」
『うん。村長さんたちを凄く恨んだ。誰か助けて、この人達を殺してって。本気で願った。その時に魔王の声が聞こえた』
シェイリーは手で涙を拭く。
『でも、おかあさんまで酷い目にあってるのを見て、願いが変わったの。お母さんを助けて、おかあさんは幸せになってほしいって、最初の願いが叶う前に別の願いを訴えたの』
シェイリーは少し考えるように舌を向いた。
『願いを上書きして、中途半端な感じになっちゃって、魔王の力が上手く作動しなかったみたい。どっちを選ぶか選択出来なかった。だから、おねえちゃん達にすごく感謝してる』
「シッ! 黙れ」
あたしが鋭く呟くと、シェイリーはスッと茂みに隠れた。
あたしも茂みに隠れて数人をやり過ごす。
徘徊しているのは老人達だ。彼らも普通の表情をしているが、眼は見開き血走っていて口がへの字になっている。
居住区に大分近づいた。ここまでくると人の気配が多い。大勢の監視の目があるので、慎重に移動してもすぐに発見されそうだ。
居住区を眺める。道には村人が往来している。本来なら病で動けない者も外で徘徊しているため、人通りが多い。
屋根は駄目だなぁ。明るい日中で上がると目立ってしまう。
うーん。どうしたものか。
『…………みんなの体……花。そっか。朽ちて……そうなんだ』
シェイリーは居住区に咲いている白い花を凝視して、小声でボソボソ呟いている。その口元は薄ら笑いを浮かべているように見えた。
幼女の背中から背筋が凍るような悍ましい圧が放たれると、徐々に額が熱を帯び始める。
嫌な予感がした。
「シェイリー?」
小さく呼びかけると、白い花を見ていたシェイリーがゆっくり振り返った。
顔を見て、やっぱり、と息をつく。
シェイリーの目から真っ黒いカマボコ目がポコポコと、沸騰するお湯のように浮かんできた。
『おねえちゃん。私、時間がないみたい。もうすぐ魔王が代償を取りに来る』
「そうみたいだな。だとすると、白い花、偽リリカはあんたがこの村に放った災いか」
『うん。復讐はしっかり出来ていたから安心した』
そしてこシェイリーは辛そうな笑みを浮かべる。
『ごめん。おにいちゃんが来るまで持たないと思う。最後にこれだけはお姉ちゃんに伝えておくね』
「なんだ?」
と言いながら、あたしは刀を握り、いつでも攻撃できるよう低く構える。
『魔王の願いと私の願いが一致した時、依代として選ばれる。依代の願いが叶った時、依代は魔王の器として機能し始め、現世に影響を与える。世の中の人間はみんな依代の候補だよ』
「全員、依代の候補だと?」
『依代は特別じゃないの。姫の願いを叶える為に、実現させるために、魔王達は狂わされた。もう正気には戻れない。だから狂う。願いに、欲望に、希望を求めて狂っていく』
「教えろ。魔王はどのくらい倒せば滅びるんだ? 無限に生きる存在なのか?」
黒いカマボコ目がきょとんとした様子であたしを見つめる。無邪気、そう言えるほど、全く悪意が無い表情だった。
『有限だよ。想いの塊だから減らしていけば減っていく。魔王は依代の願いと想いに同調することで、依代の力を取りこんで蓄えているだけにすぎない。我は魂が欠落している。ゆえに器がない。我は人々の願いで、呪いで、希望で、絶望で、形成されているに過ぎない想いの権化』
「あんたの求めるものはなんだ。姫に固執するのは何故だ。やはり恋愛のもつれからなのか?」
『レンアイのモツレ? はは、あははは』
あたしがの質問に、シェイリーが壊れたような笑みを浮かべた。目から黒い染みが出てきて顔中に広がる。
くそ。これ以上は無理か? 今すぐ倒すか?
いつでも刀をを抜けるようにしているが、まだ完全に魔王になっていない気がする。
「シェイリー、聞こえるか?」
あたしは最終警告のつもりで呼びかけた。これに応じなければ殺そう。
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