第95話 水底のデスパラダイス⑦

「当たり前。これを気持ち悪くない、って、言う奴がいたら、そいつのセンスを問いたいね。巷でも、殺して捨てられてる」


【なんだと!? 貴この魚の素晴らしさが、分からないのか!? これなら姫も喜んで食すに違いない、傑作品だというのに!】


 魔王達はセンスがまるっきり無い。

 こうなってくると、姫のセンスも問われるところだ。


【そもそも、この魚は姫だけに、食してもらうための物だ。下賤な人間が食べるのもおこがましいのに、食べずに捨てるなんて、なんて粗末な事を……容赦はしない】


 食べずに捨てていることに、盛大な怒りを感じる。

 気持ちは少しわかるが、毒で死ぬ魚は食いたくないから、殺して捨てるわ。


 怒りの声に反応して、四方の水面からバシャバシャと水しぶきが飛んだ。湖で泳いでいた魚達が飛び込んできた。


 そういえば、内側から抜けられないが、外側から入れないとは言ってなかったっけ。ってことは、眷属がここに集まってくるのか……。


 上等! 全部切り捨ててやろう。



 ギョギョギョギョギョ!



 どっから音を放っているんだ? と、聞きたくなるくらい、威嚇音とビチビチ跳ねる音が響く。


 水の壁を飛び越えた眷属達は、吹き荒れる風に煽られず、ここが水中であるかのように泳いでいる。


 魚の群れ集まり、ベイト・ホールを作りだした。

 目と手足が生えた寄生部分が、黄色くうねうね光っているので、居場所を教えてくれる。

 数個作られ、サイズは大きかった。

 光る部分だけ見ると、暗闇に浮かぶホタルのようで綺麗だ。


 って、鰓呼吸どうした!?

 ついに肺呼吸か!

 肺魚に進化したのか凄いな!


 心の中で揶揄ってみる。口を開くと大変なことになるので、今回は無言だ。


【魚のえさになるがいい!】


 魔王の恫喝に従い、ベイト・ホールが一斉に襲ってきた。


 眷属達は鋭い牙を剥きだしにして、こちらへ突撃してくる。

 吹き荒れる風もなんのその、小さな手足で風を掻き分け、矢のスピードを出している。推進力の源は魔王だろう。


 うーん、四方から一斉にやってきているので、この数を全て避けるのは不可能だ。


 となれば。


 あたしはその場で回転しながら、四方を一度に切る手法にした。


「奥義! 獅子殺しデビルズクロー!」


 刃から生まれた小さなかぎ爪を孕む風が、眷属達に絡み付き、触れた瞬間に分断された。

 眷属達は紙吹雪のように風に煽られ、飛び散っていく。


 切り裂くと、眷属のエラから黒いねばっとした液体が、吹き出した。その液体がかかると、他の眷属の推進力が増す。


 あれが空気でも泳げる源のようだ。

 血液の代わりになにを入れられているんだ。


 切っていくと、どんどん眷属の方が泳ぐスピードが早くなっていく。

 これは、おそらく、あたしの周りに黒い液体が漂っているのだろう。


「……」


 考えないようにしているが、気持ち悪い!

 魚の身とか切れ端もついてくるし、絶対に生臭くなってる!


 げんなりしてくるが、それで刀が鈍るわけでもなく、徐々に魚の数を減らしていく。

 

 さて魔王はどこかな。


 片付いた瞬間に突撃したいが、姿がどこにも見当たらない。


「まさか、逃げられた?」


 いや、そんなはずはない。近くに反応がある。

 暗闇で見えないだけだろう。

 とりあえず、眷属全部倒すか。


 左から来た大きい眷属二匹を切り裂いた瞬間


「!?」


 嫌な予感がしてその場から逃げた。


 ガブオ!


 上から何か刺さったような音がする。


 側転をしつつ確認すると、さきほどまで立っていた部分に、黒い巨大魚が覆いかぶさっていた。

 地面ごと齧って直立している。

 あのまま立っていたら、今頃あの魚の口の中だ。


 危なかった。

 余計に生臭くなるところだった。

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