第91話 水底のデスパラダイス③
リヒトから大きなため息が漏れた。
握っている手を振り払うことなく、ゆっくりと歩き出したので、あたしはマフラーを離して、その横についた。
観念した様に話し始める。
「俺が使っている力は攻撃、補助、防御の三種類。扱える精霊は五大元素だ」
「精霊五種類って、火・水・風・土・天の全種類って事か。それパーフェクトなんじゃ? いやでも、その割に、一から二種類の攻撃しか見たことない気がする」
リヒトは頷く。
「五大元素でも属性の相性で、最大効果の値に強弱はある。俺が一度に扱える種類は二大元素だ。そして、その法則とは別に、術が発動しにくい点があり、その部分が今回の退治の足かせになっている」
「ふむ?」
「まず、敵が水底にいるため、足場の問題が発生する。足場を作りだすには、補助の術をかけることになる。すると俺は、補助の維持するために攻撃が使えなくなる」
「もっと簡単に」
リクエストすると、リヒトはちょっと困った様に息を吐いた。
「俺は攻撃発動中に、補助や防御を使う事が難しい。その逆もまた然り。そして精霊の密度によって扱える術に制限が発生する。さらに他属性を同時に操るには、精霊同士の相性の問題も発生する」
「つまり攻撃と防御系は連動できない。また属性が違えば相性により効果の程度が変わってくと。同属性でも制限ありってやつか」
「そうだ」
あたしは説明を噛み砕く。
「一つの攻撃が終った後なら、他の精霊の攻撃やら補助やら防御が発動できるって事だな? 継続しながら違う属性の効果をかけるのが困難、って解釈であってるか?」
「そうだ」
ふむふむ。
なんとなく分かってきた。
「発動条件が『精霊の量』であるなら、その『量に応じて使えるパターンも限られてくる』ということか。攻撃力をメインにすると、その他が薄くなる、若しくは不発。防御をメインすると、攻撃がしょぼくなるか不発」
あたしはピッと人差し指を立てた。
「属性のバランスを考えると、水の上では火の恩恵は薄く、水と風の恩恵は大きいってことかな。あんたは火が得意みたいだから、攻撃力が半減するって言いたいんだろ」
リヒトは満足げに頷く。
「ああ、そこまで分かれば良い。理解力だけは本当にあるんだな」
「理解力だけで悪かったな!」
だが、これで納得できた。
「まあつまり。足場の確保で水の補助を使っているから、現時点で攻撃が使えない。魔王と対決する時に、攻撃が出来ないんじゃ話しにならない。その上、水属性だと思われる魔王に火で対応は難しく、水の攻撃が効くかどうかも分からない。ってことで、あたしが必要となったわけか」
リヒトが強く頷く。
「魔王に『風』は効くかもしれないが、水中に潜んでいるとなると、風単独では十分な威力が期待できない。だったら最初から、お前の回復を待って、直接物理で倒せばいいか、と思ったんだ」
「ふむ、なるほど」
湖のど真ん中で水中。
足場がない場所に魔王が潜んでいる。
岸に呼べないのであれば自ら赴くしかない。
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