第38話 訪問
夏休みの1週間目も終わる頃。
「なぁ、ほんとに行くのか?」
「今更引けないよ!先輩も覚悟を決めて!」
「...でもなぁ。」
今俺たちは朝から外で待ち合わせをしていた。今日行くところは決まっている.......のだが...
「なんでよりにもよって俺ん家なんだ!?」
今日の行き先は俺の家ー本田家ーだった。どうしてかと言うと、陽華がどうしても挨拶に行きたい、夏休みの間には絶対行くと言って聞かなかったからだ。どうして今日なのかは早めにしといた方がいいだろうという考えの元だ。..........胃が痛い。
「もう諦めなよ!行くよ!」
陽華に引っ張られていく。恋人を親に紹介するのってこんなに精神的拷問なんだな。不可抗力とは言え陽華はよくやったよ。
玄関前まで来て陽華の足が止まった。
「どうした?」
陽華はおもむろに振り返って
「緊張してきた......」
と言ってきた。顔色も少し悪い。緊張しすぎなのでは?と思ったが多分俺もそうだっただろうと思い直した。
「行くぞ。」
今度は俺が陽華を引っ張る。陽華は抵抗せず着いてくる。
「俺がついてるから大丈夫だ。」
そう言うと陽華は小さく頷いた。
「ただいま〜。」
「お、お邪魔します......」
家に入ると陽華がおずおずと入ってきた。
「おかえり。」
「いらっしゃい。」
父さんと母さんが玄関まで来る。2人の顔は陽華を見ると驚愕に変わった。
「えっと、そちらの方は?」
母さんが恐る恐る尋ねる。
「私、本田明さんの彼女の日比野陽華です。」
再び両親の顔が驚愕に変わった。さっきよりものすごい顔に.....
「改めまして、私、明さんの彼女の日比野陽華と言います。以後お見知りおきを。」
「これはこれはご丁寧にどうも。私は明の父の本田透です。」
「母の佳奈です。」
俺たちはリビングに移動して改めて自己紹介をしている。親と彼女が挨拶してるのってけっこう気まずいな。
「えっと、陽華さんでいいのかな?」
「はい!」
「本当に明の彼女さんなのかい?」
「はい!」
「なんかこう脅されているとかお金での関係とか......」
「ちょっと待て。息子にどんな印象持ってんだ!?」
「そんなことは全然ないです。むしろ私がお金を払いたいというか、」
「明〜、どういうことかしら〜?」
「違うから!誤解だ!陽華も何か言ってくれ!」
「えっと、明さんにはいつもお世話になっています。」
「それ今言うことじゃない!」
「コホンッ」
「「「...」」」
父さんの咳払いでその場が静かになった。
「この際、そんなことはどうでもいい。大事なのはお互いがどう思っているのかということだ。」
父さんの言葉が突き刺さる。少し前までの俺だったら言葉を濁していただろう。でももう逃げるのはやめた。今ならはっきりと言える。
「俺は陽華のことが好きだ、」
親に対して遠慮はいらない。ただ自分の意思をはっきり伝える。
「ふぅ。」
隣で陽華が深呼吸しているのが聞こえる。
「私も明さんのことが好きです。」
彼女も迷いなく自分の意思を伝えた。後は親がどう出るか。
「.....ならば何も言うことはない。」
「「えっ?」」
2人して素っ頓狂な声を上げる。
「ほんとにいいの?」
「いいも何もお前がここまではっきりものを言うのは久しぶりだったからな。」
「そうね。あの明がここまで言うってことは相当ゾッコンなのね。」
「母さん...」
「本田家としては2人の交際を認めるが、陽華さんのとこはいいのかい?」
「それは既に許可を取っているので大乗です。」
「すでに根回し済みか。」
「いや、言い方!」
いつの間にか今までの緊張ムードが霧散していた。
「どうかふつつかな息子ですがどうかよろしくお願いします。」
「お願いします。」
「はい、明さんのことは必ず幸せにします!」
晴れて俺たちは両家公認の恋人となった。
「...それさ、俺のセリフじゃね?」
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