第37話 藤堂俊佑の苦悩

(僕は少し焦りすぎてしまったのだろうか。)

 僕はそんなことを思う。あの2人ー陽華さんと明ーを見ていると僕はとても不安になる。いつか僕のようになってしまうのではないかと。

 僕には美結と付き合う前、小学生の時付き合っている子がいた。これは親も明も美結さえも知らない話だ。知っているのは当事者の2人だけ。告白してきたのは向こうからだった。相手の子はクラスメイトで大人しい子だった。まだ僕は恋というものを知らなかった。

 その子は夏休み前くらいに告白してきた。そして若気の至りで了承した。その年の夏休みは多くの時間をその子と時間を共有した。とても楽しく今でもいい思い出だ。その子はとても僕に尽くしてくれた。なるべく僕と一緒にいようとしてくれたり、僕にたくさん話題を振ってくれたり、デートプランを考えてくれたり。特にデートなんてたかが小学生が行ける場所なんて限られている。大変だったのだろうけど頑張って考えてくれた。

 そして、僕はいつの間に本当にその子のことが好きになっていた。

 当時の僕とその子はいつも一緒にいた。それこそ、ずっと一緒にいるものだと思い込んでいた。だから、自分の気持ちをその子に打ち明けたりしなかった。きっと、何もしなくてもその子だけはそばにいると思って...

 おそらくはそれがいけなかったのだ。恥ずかしがって自分のプライドを優先して、結局その子のことを何も見ていなかった。

 ―――――――――僕はフラれた。

 唐突の出来事だった。進級する前の春休み、僕はその子に呼び出された。その子の顔を今でも鮮明に覚えている。あの時のその子の流した涙を、その子が言った言葉を...

『もう別れよう』

 と。

 当然僕は反対した。いくら何でも急すぎる、どうしてそんなことを言うのか、と。その言葉が何より頭の中に残っている。

『私がどれだけ頑張っても全然こっちを見てくれないから疲れた』

 と。

 僕は必死になって弁明した。それは誤解だと、僕は君が大好きだ、と。でももう遅かった。僕がどれだけ必死になってもその子はもう振り向いてくれなかった。僕たちはもうやり直せない。そう悟り、僕の初恋は終わった。

 今の明はその時の僕に重なった。このままでは危険だと思い、明に催促してしまった。本当は本人たちのペースでやらないといけないのに...僕は自分が嫌になる。

 でもこれであの2人が 僕たちのようにならないようにならないでくれたら嬉しい。あの時とは違った結末を2人には見てほしい。

 そう思い、僕は瞳を閉じた。

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