人形だ

起きる。

根源的な行動。

貴方はいる。

一人。

孤独。

疑問符?

あなたとは。私とは。

最初、私は理解できない。

周りで世界は存在を疑わず行動する。私も彼らの構成員の一人として存在する。

私は昔、人間だったと施設長は話す。

本質的には人形と教えてくれる。

人間と人形の違いはなんだろう。自分を省みるとわからない。

施設長は施設に置かれている人形を指さす。

「君とは違って本来人形は意識を持たない。キミもそうだが、魂を埋められたことにより、人のように動ける」

「魂は何処からきたのですか」

「人間からです」

魂がわからない。人間にあって、人形にない。

なら、私は人間なのか。

「昔は、です。今は違う。考える必要はない。生きていくことが肝要ですから」

私は寒い土地でこのようになり申したが、施設長が私を選び、少し温かい施設が生活の場となる。

私と似たやつが他にも十二人いる。

施設では名前がない。

個人であることが意味をなさない。

私たちと施設長の他に邪魔者はいない。

長閑で平和な生活。

毎日決まった時間にお祈りをする。

眠る。

仲の良いものが二人できる。

一人は頭の切れるやつ。

一人はお淑やかで親切が溢れているやつ。

三人でよく追いかけっこをする。

お話をする。

頭の切れるやつが話すことは自分の考えを深くする。

『僕たちはどうしてこんなところにいるんだろう』

『さあね』

『施設長も道楽で僕たちを飼っているわけではない。僕たちは昔人間だったということは、人間だったやつはどうなったんだろうね。人間ってやつは死ぬらしいが、死んだんだろうか』

『わかんない』

『死んだとしたら僕たちは誰かの犠牲になって生きているわけだ。それを踏まえて施設長は僕たちを飼っている。不思議な話だ』

何が不思議かよくわからないが話を聞いているだけで賢くなる。

『キミたちはいつか何処かへ行く。キミたちはそれまで此処にいるのだ』

周りにいるやつは季節が経るごとに減る。

仲の良い三人で最初に旅立つのは僕だ。

旅立ちが決まる日、やけに施設はざわざわする。決まって見学者が来ると数日前から施設長から知らされるからだ。

次は誰が消えるのか。

三人は一緒に連れられていく。

私は勝手に思い込んでいる。

連れて行かれるとどのような運命が待っているのか。

賢いやつ以外、私たちは考えない。

三人は彼のおかげで考えている。

『人形なんだよ。僕たちは。意識をもっているがそれだけ。意識をもっている特性が僕たちの運命を決めている』

残虐か、ほのぼのか。

想像できるほど豊かではない私も未来に暗鬱とした予想を重ねる。

色々な種類の『保護者』が施設に見学に来る。

今回の『保護者』は裏社会の住民のように影がやけに濃い。

黒いサングラスの向こうで私たちを見定める。

私たちは見学者の様子を伺いながら、外で鬼ごっこを続ける。

そして私が呼ばれる。

施設長はニヤニヤと笑う。

「貴方にもこの時が訪れます。いつもお話ししていたでしょう。彼が貴方の『保護者』です』

『保護者』は私に手を差し出す。

「こんにちは。これからよろしく」

私も手を差し出す。

契約成立である。

名残惜しく、私は私たちを振り返る。

仲の良い三人は遂に離れ離れになる。

さようならも言えない。

もう私は『保護者』のものだから。

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