第9話 普通!!
私はその日…福岡県東区にある唐揚げ専門店に来ていた。
私が企画していた新製品の量産が始まり、その調整で忙しかった事もあり、昼食を摂る事も忘れていたなか、気がつけば15時になっていたのであります。
そんな中、襲ってきたのは一周回って再来する空腹です。
ですから、唐揚げが食べたいのは皆様のご理解頂ける所存でしょう。
さて、ここからは理解の及ばない話を一つしようと思います。
『もんどりあん』これが、私の訪れた唐揚げ専門店の名前です。
店に入ると、店内の三分の一がプロレスのリングで占められています。
なので、広い店内にも関わらず、テーブル席はたったの2席。カウンター席を含めても、8人位しか店内に入ることは叶いません。
まあ、リングがあるんですから、仕方ないでしょう。
…え? 何の話だ? ですと?
ええ、私は唐揚げ専門店に昼食を摂りに来たのです。
ですが、15時という時間にも関わらず、店内は満席の為、やむなくテイクアウトをすることにしました。
【唐揚げ弁当5個入り(普通盛)¥560- 】
うん、専門店でこの価格は安いと思います。
店員さんも元気よく、「出来ましたらお車までお持ちしますんで、6分程お待ちください!」と、笑顔で対応してくれました。
これは持論ですが、忙しい最中でも笑顔を絶やさない元気な店員さんが居るお店にはハズレが無い。
私は胸をときめかせ、車内で米津玄師の『レモン』を聴きながら待つことにしました。唐揚げと言えばレモンでしょう。
するとどうした事だろう。レモンが終わるや否や、ドアをノックする音が!
なんと、店員さんが満遍の笑みで『お待たせしました!』と、言っているではありませんか?!
この時ばかりは『うぇっ』て言ってしまいました。 これはレモンの間の手でもありますよね?
…流石だ。6分お待ちくださいと言った中で、4分少々で仕上げる事にプロ意識を感じつつ、私はビニール袋に入った弁当を受け取ると、違和感を覚えました。
それは重量。質量。グラビティ。
言い方は様々であるが、ずしりと私の腕にのしかかるプレッシャー。
(お弁当のオマケにミニダンベルプレゼント!)なんて、広告も無かった筈だが、あまり気にせずに私は営業所に帰る事としたのでした。
––– そして、事件は起こったのです。
近況ノートに貼り付けた写真を見て頂きたい。
https://kakuyomu.jp/users/napc/news/16817139557860037556
言っておくが、私は唐揚げ弁当5個入り(普通)を頼んだのである。
…普通とは? と、疑いたくなる程の爆盛り感。唐揚げはチョモランマより高く、ご飯はマリアナ海溝より深いのです。
第一、蓋が閉まっていないし、最近流行りの上げ底トレーとは、時代を逆行するかの様な下げ底のトレー!
もちろん、弁当以外は入っていないので、この重量丸々が胃に収まる事になるのです。
もう一度言う。 普通とは?
こうして、唐揚げ弁当5個入り(普通盛)とのデスマッチは、ゴングと共に始まった。
先ずは付け合せ(日替わり)のひじき煮を一撃で胃に沈める。和風だしの効いた大豆とひじきが私の喉を鳴らす!そこにご飯のフォールでスリーカウントを狙うが、深い飯の海が私の上腕二頭筋からスタミナを削り取っていった。
しかし、まだ闘いは序盤。間髪入れず、唐揚げマウンテンを崩しに掛かる。しかし、その拳骨の様な大きさは、一口で攻略させまいと言う意志すら感じる程にデカかった。
噛み締めると、サクッ!という歯応えと共に溢れ出す醤油の風味が効いた肉汁の海に溺れそうになるが、ほんのり生姜の香りが私を覚醒させる。
––– ヤバいほど美味い。流石は専門店ッッ!!
これは、全身全霊をもって応えねばなるまい。
こうして、黙々と私は弁当との死闘を繰り広げたのだった。
均衡が崩れたのは、私が唐揚げを5個食べ終わった時だった。
「なん…だと?!」
そこにあったのは、2つの唐揚げだった。
私は注文を間違えたのか?
これでは唐揚げ7個入りでは無いか?!
現状、私は満腹になっていた。
しかし、ご飯は2割程が残っており、更には2つのゲンコツ唐揚げが胃への行手を阻む。
「ふっ、店員さんのおっちょこちょいめ…」
よかろう、こうなれば奥義『出された物は全て頂く』をもって、喰らい尽くすまでだ。
そして、次行った時に差額をお支払いするとしよう。
こうして、私は死闘を制した。
実に素晴らしい体験であった…… 動くと逆流しそうな程に。
––– 後日。
私は再び『もんどりあん』に訪問していた。
そして、店員さんに唐揚げが2個多かった旨を伝えたのだが……
彼女は言った。
「え?それが普通ですよ」と……
如何だっただろうか?
この世には、理解の及ばない事が起こりうるのである。
唐揚げ5個入りなのに7個入り。
到底大盛り7個入りを注文する勇気はないが、これからも私は『もんどりあん』さんを応援します!!
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