20:再びバランドールへ~後編~(シエラ)

 「シエラ嬢!」


 「!」

 

 私は思わず逃げたけど、あっけなくアルバードに捕まってしまった。

 そりゃそーよね。子供と大人、しかも冒険者相手で、逃げ切れるわけがないもの。


 「放して!」


 「放してもいいけど、逃げない?」


 「・・・・・」


 私は無言でそっぽ向けた。・・・わかってる。意地になってるだけだって。


 「んー、そんな態度じゃ放せないなぁ。」


 ちっ


 「ちょ!お姫様が舌打ちした?!」


 つーん


 「うーん、どうしたもんかなぁ。子供扱いされてるのが嫌なんだよね?」


 いえ、違います。それはさっき取って付けたいい訳なんです。


 「・・・そうよ。」


 「ごめんな。俺女性の扱いがよくわかってなくてさ。こんなんだから、前の婚約者にも逃げられたんだけどね。ダメだな俺。」


 そういうと、アルバードは寂しそうな笑みを浮かべた。

 !そうだった!アルバードの前の婚約者は男作って逃げられたって聞いてたわ・・・。

 

 やだ・・・私アルバードが傷が癒えてないのに・・傷口に塩を塗り込むような事をしちゃったのかも・・・それに・・・


 「もしかして・・・その人のこと好きだった?本当のことを教えて?」


 前回聞いた時は、政略結婚とはいえ、いい関係は気付きたかったけど、婚約者の人は好きな人ができてしまい、その人と駆け落ちしたと聞いた。

 だけど・・・もしかして、アルバードはその人のことが本当は忘れられないとかだったりしたらどうしよう・・・。


 「いや、全然。」


 ・・・即答だったわ。


 「俺的には、別に他に好きな人ができたなら、それでも良かったんだよ。けど、ちゃんと言ってくれたなら、俺も悪いようにしなかったのになーってね。駆け落ちなんかしたら、彼女も実家と折り合い悪くなっちゃうだろ?だからその点は正直言ってほしかったなーってそれは今でも残念に思ってるよ。とはいえ、俺一応これでも侯爵家だしさ、上位貴族にいうのは憚れたんだろうなとは、想像はつくけどね。」


 ・・・やだ、何この男は!!

 ますます私を好きにさせる気でしょうーーーーー!


 シエラは、アルバードの人の好さに、キュンキュンしていた!もちろん顏は真っ赤になっている。


 ・・・やっぱり、正直言おう。片思いの事は伏せて。


 「アルバード」


 「うん」


 「ごめんね。私の八つ当たり。別に子供扱いとか、そんなんじゃないの。ただ戻れないことにイライラしちゃってただけよ。」


 「そっか。」


 「ごめんなさい。」


 「ん、わかった。」


 そういうと、アルバードはいきなり私を持ち上げた。


 「え?え?」


 私を軽々と持ち上げて片腕だけで、私を抱っこしている。

・・・てか、顔が近いし、密着してるーーー!


 「本当はさ、お姫様抱っこしてあげたいところなんだけど、今のお姫様じゃ、できないから、これで。」


 そういうとアルバードはニカっと笑った。


 「こ、子供扱いしてるーー!」


 「違うよ。婚約者として、スキンシップ?的な?」


 「なっ何よ、それ!」


 「ごめんな。シエラ嬢の気持ちはまだわかんないけどさ、俺も婚約者として歩み寄るように努力はする。」


 「え?」


 「本当は相思相愛だったら、まどろっこしい事しなくてもすむもんな。」


 アルバード気付いたんだ・・・。


 「・・・・そうね、でもこればっかりは仕方ないから。」


 「うん、努力でどうなる問題でもないことだけどさ、俺シエラ嬢のこともっとよく知りたいとは思ってる。」


 「え?」


 「俺、実はさ、恥ずかしながら、異性としての好きって気持ちがよくわからなくてさ。」


 あれ?もしや・・・

 「・・・まさかと思うけど初恋は?」


 「ん、まだだな(笑)」


 嘘でしょーー27歳で、まだ初恋まだって!!


 そういうシエラは自分がアルバードが初恋だったことをこの時点では忘れていた。 


 「うそ・・・」


 「ほんと。だから恥ずかしながらって言っただろ。ぶっちゃけると経験不足だな。」


 「・・・ぶっ」


 「あ、何笑ってるんだよ!正直に言ったのに!」


 アルバートはそう言いながらも照れ隠しに怒ってるふうに見せてるそんな感じだった。だって顏が赤いもの。

 

 「ごめんなさい。あまりも明け透けに言うから。」


 「あ~ちなみに言うと、他では、こんなことわざわざ暴露してねぇから。」


 「そうなの?」


 「そ。」


 「そっか・・・」


 そうなんだ。私だけなのかな?そう思うとなんだか嬉しくなってきたかも。


 「アルバード。」


 「ん?」


 「改めて、婚約者としてよろしくね。」


 「あぁ、もちろん、こちらこそ!じゃ仲直りだな!」


 「うん、ごめんね、八つ当たりして。」


 「いいってことよ!」


 ・・・ダメだ、好きって気持ちがどんどん大きくなるのがわかる。

 

 「あ、ほら、水平線見てみな。夕日が沈んでいく。 」


 赤くなった顔が夕日の残光でかき消されていく、シエラはそんな気がした。 


 「ほんとだ・・・綺麗・・・。」






 そして懲りずに、船室のドアの隙間から除いているイライザとユーナ。


 「仲直りされましたね。」


 「そうね~出番が全くなかったけど、仲直りできて良かったわ。」


 「そうですね。しかしこれでは私達ただの覗き魔ですね。」


 「!そんなことないわよ!見守っていただけよ!」


 「・・・そういうことにしておきましょうか。」

 

 ユーナは笑いを堪えてそう言った。


 「あ、そういやお姫様時間的にそろそろやばいかもよ?いいムードのところ悪いんだけどね。」


 今のシエラは夜になると元に戻るからだ。


 「夕日が沈みかけてますものね。姫様を呼びに行ってまいります。」


 「あ、私が行くわ。ついでに二人に謝ってくる。」


 「かしこまりました。ではお任せしますので、私は姫様の部屋でお待ちしていますね。」



 その後、イライザは二人に、アルバードを差し向けたのは自分だと白状し、二人は何も気にしていないと、笑ってその場は治まったのだった。

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