第28話 呪いのブログ
十年くらい前に、見ると呪われるというブログがあるという都市伝説が流行った。
現在、ブログはBANされたのか、どう検索してもweb上に見つけることができないが、幾つかの証言をまとめると内容はだいたい以下の通りである。
1・そのブログは全国各地の心霊スポットや風習をまとめたものである。
2・ブログに載っている心霊スポットは、他のサイトなどで紹介されているモノとは違い、なじみのない場所ばかりである。
3・そこに載っている心霊スポットに行った者は漏れなく心霊現象が体験でき、そのうちの一つ、とある廃村に行った者で生きて帰ってきた者はいない。
4・ブログ内には動画がいくつかリンクされており、それを観たものは精神に変調をきたす。
5・あまりに反響があったため、ブログを管理していたサイトがそのブログを閉鎖したという。
6・ブログを閉鎖された制作者は、その後、自ら命を絶った。
7・閉鎖後、そのブログを見つけ出せた者は
そこまで打ち込んで、
彼はフリーのライターであり現在、「令和の怪談」というホラー雑誌に記事を書いていた。(第21話 ミイちゃんのうた 参照)
現在、彼が取材を行なっているネタ、「呪いのブログ」は以前、彼が書いた記事、「ミイちゃんのうた」の元となったネタである。
その他にも、「呪いブログ」に掲載されていたといわれる幾つかの題材を記事にしてきた金川にとって、「呪いのブログ」はまさに飯のタネであった。
そんな金川が今回、満を持して、呪いのブログ本体を記事にしようとしたのには訳があった。
それは、「呪いのブログ」に掲載されていると言われるネタすべてが、実は一つの源流から来たものではないかということを突き止めたからであった。そして、今まで集めた資料を調べなおすと、幾つかの同じキーワードが浮かび上がってきた。
北関東
山間部の廃村
呪いのことば
金川は、これらの言葉から北関東の山間部にある廃村探しに奔走していた。
そんな折、友人であり仕事仲間の
「おい、ついに見つけたぞ。呪いのブログ」
開口一番、彼は興奮状態でそういった。
「今、パソコンにメールを送ったから」
「ああ、分かった」
金川はメールのアイコンをクリックしながら訊いた。
「どこでURLを手に入れたんだ?」
「匿名で送られてきたんだ」
彼は『令和の怪談』の編集部に勤めている。
金川はメールに添付されているURLをクリックしたが、「404 Not Found」と出た。
「おい、リンク先に飛ばないぞ」
しかし、磯貝から返事はない。
「……磯貝?聞いているのか?」
スマホの画面を見るとホーム画面に戻っている。通話が途切れてもいきなりホーム画面になることはない。
金川は通話履歴を見てみるが、磯貝からの着信履歴がない。
「……」
慌てて磯貝の電話番号をタップしてみるが、呼び出しが鳴るだけで繋がらない。
「なんだよ、これ?」
金川はPCの画面に表示された「404 Not Found」の文字を見つめた。
その後、磯貝の行方は
その日、金川はレンタカーを借りて、廃村の候補地の一つである群馬県の山間部に向かった。
磯貝が行方不明となり、その穴を埋めるべく、「令和の怪談」の編集長から直々の電話で原稿の催促があったからだ。
候補地になぜ群馬県のその場所を選んだかといえば、「呪いのブログ」の噂に酷似した廃病院と心霊スポットとして名高いトンネルが近くにあったからだ。
東京から関越自動車道を使って約二時間。群馬県と埼玉県の県境にある山間部の町についたのは正午ごろであった。
金川は最初に地元の図書館へ向かい、そこでレファレンスサービスを使い、地元の歴史に詳しい資料を探してもらったがそこに廃村の情報はなかった。郷土資料館ならもっと詳しく調べられると言われたが、あいにくその日は臨時の定休日とのことであった。
午後からは、心霊スポット巡りに切り替えた。
すれ違う車もないような山深い林道を進んでいくと、目的のトンネルが現れた。車の通れるようなトンネルではなく、歩いて通るような小さなトンネルであった。
昼間とは言え、周囲は木々が鬱蒼と生えており、一人でいると不気味さを感じる。本来の目的ではないのだが、ついでの取材をする。
「ここに幽霊でるって?」
トンネルの周囲をスマホで撮影していると、いきなり後ろから声を掛けられた。
「ワオッ」
声を上げ、振り返るとそこに大柄な男が立っていた。黒のジャージ姿で、ずいぶんとお腹が出ている肥満体型の三十代くらいの男であった。
「え?」
問いかけるが、男は丸く大きな目で、ジッとトンネルを見つめたままである。金川は全身に鳥肌が立って、男の脇をすり抜け車へと向かった。
「ねえ?幽霊見た?」
後ろから声が追ってくる。
「なんだよ、あいつ……」
エンジンをかけ、車を切り返して、きた道を引き返す。
道路わきにスクーターが止まっていた。どうやらそれでやって来たようだ。
「ビックリした……」
つぶやいて林道の本線を登っていく。
うねうねと続く林道をゆっくりと登っていくと、バックミラーに黒い影が映りこんできた。あの男のスクーターが迫ってきた。
「なんなんだよ、あいつ……」
つぶやいて、追跡から逃れるようにスピードを上げる。
山道を走行するので軽のジープをレンタルしたが、慣れない山道に、スクーターに追いつかれたようだ。
「クソッ」
バックミラーからスクーターが消えた。
しかし、奴の目的が心霊スポット巡りなら、廃病院に来る可能性は高い。目的地が同じなら急いでも無駄だと思ったとき、逃げている自分が馬鹿らしくなった。
これが仕事でなければ、相手を避けようとしたかもしれないが、大義名分があるということで気持ちを強く持ち、廃病院へ向かう枝道に入る。
少し行くと、道の真ん中に進入禁止の木製のバリケードに虎ロープが張られていた。
「なんだよ、もう……」
車を置いて行けなくはないが……。
すると、エンジン音が後ろからして、振り返ると、スクーターが狭い道に止めた軽のジープの脇をすり抜けてきた。
「行けない?」
黒のハーフキャップをかぶった男が、金川の横に立ちいった。
「……みたいですね」
つぶやくように金川はいった。
すると、男はバイクを止めてヘルメットをシートの下に仕舞い、何の躊躇もなく虎ロープを越えて、近所に出かけるように行ってしまった。
金川は、しばらくそこに留まっていたが、あの男と一緒に心霊スポット巡りはいやだと車をバックさせ、林道の本線の合流地点まで戻った。
来た道を引き返すか、それともさらに奥へ進むか……。ナビでは、その先も道はつづき、かなり遠回りとなるが市道に出られる。
中途半端の時間だったので、来た道を進むことにした。
廃病院が離れていくと、なぜ病院に行かなかったのかと後悔が湧いてきた。
――変な男がいたとしても、こっちは仕事で来ているのだ。そんな生半可なことでどうする?
と自己嫌悪に陥ったそのとき電話が鳴った。
おかしい、さっき確認した時は圏外だったはずだ。
ディスプレーを見てみると、磯貝からであった。驚いて、車を路肩に止め、躊躇したが電話に出る。
「おい、ついに見つけたぞ。呪いのブログ」
開口一番、磯貝の興奮した声がした。
「今、パソコンにメールを送ったから」
金川は何か言おうとしたが、明らかにおかしいことに言葉が出てこない。
スマホからメールの着信音が流れる。画面を見ると、メールが送られてきていた。
黙っているとメールが勝手に開き、URLを表示して、そこからリンク先にとんだ。
「なんだよ、これ?」
そこには『呪いのブログ』と赤文字のフォントが写っていた。
更に画面内では勝手に操作が進んでいき、スクロールされ動画が勝手に開かれ、動画が再生される。
金川はスマホをタップしたり、電源ボタンを押すが画面が切り替わることはない。
「え~ここが心霊スポットと名高い廃病院です」
画面が揺れながら、昼間の病院らしき建物が映し出される。そして、カメラが反転して、撮影者の顔が映し出される。
「……それでは入りたいと思います」
それはさっきスクーターでやってきたあの男であった。
「うわーっ」
金川はスマホを投げ出し、ギアを「Ⅾ」に入れ、アクセルを踏んで林道を登っていく。
スマホの音声だけが聞こえてくる。
「この廃病院では様々な心霊体験が報告されています。それはこの山の上にある最恐スポット、
山頂を越したのか、上りから下りに道が変わり車が加速する。カーブを曲がったそのとき、突然、人影がスッと道の真ん中に現れた。金川はブレーキを踏み、とっさにハンドルを切ってその人物を避けた。
ボロボロの布を纏い、爆発したような髪の毛をした女であった。その女は首を斜め下に
すれ違う瞬間、
「あがガガガががががっが……」
金川はハンドルを切りそこない、ガードレールを突き破って、そのまま崖に落ちていった。
🈡
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