第20話
「いいんだよ.
誰を好きになろうと.
それこそ自由だから.
リョウくんがドールさんを
好きになったら
それでもいいんだよ.
何で男女の婚姻が
力を持っていたか.
人が
ここでしか生まれなかったから.
皆,器が欲しかったんだ.
だけど,
もう皆自由だ.
見えてるんだ,その世界が.
自由に生きられる.
生産とか
支えるとか
国力とか
もう考えなくて良い.
好きな人を
ただ好きでいられる.
皆みんな権利として
守られる.
愛する対象は、
同性であろうが
異性であろうが
ドールであろうが
自身であろうが.
ハイブリッド型のドールは
やがて完全な人になる.
無限に.
そして人すら超えていく.
あらゆる面で.
知能も能力も体力も何もかも.
オリジナルの人類は
衰退していくだろうか.
勝てないと諦めて
自堕落に暮らすだろうか.
もう何もないと
自ら元居た場所へ戻っていくのだろうか.
蓋を開けたんだ.
もう上から覗いているだけじゃ済まないよ.
皆渦中の人なんだ.」
研究員さんが
楽しそうに笑った所を
僕は何と言えば良かったのだろう.
ルカちゃんだけ
研究員さんと同調して
ふふふと笑った.
笑えない.
人類は衰退なんてしない.
オリジナルは…
オリジナルは…
負けないんだ.
本当に?
オリジナルを加工して
+の価値を付随させているのに.
もうよく分からない.
分からないけれど…
諦めるわけにはいかないんだ.
何のために
200年も眠って
身体を…
何でも出来る身体を手にしたっていうのに.
何もかもを置いて
何もかもと引き換えにして
ここまでやってきたのに.
「この世は事象が,ただ流れていくだけだよ.
そう,それは風のように.
そう,それは波のように.
そこに抗おうが流されようが
さほど関係ない.
元来た所に
あるべきように
流れていくだけさ.」
「だから,
何もしないんですか?
頑張らなくてもいいんですか?」
「答えはご自分で.
あなたの師でも何でもないのだから.
心の動きは昔も今も変わりない.
200年で進歩したと思う?
どうだろうね.
ハードが優れていても
ソフトがついて行かなければ…
結局,見せかけだけ変わるだけなのに.」
「皆,十月十日で出てくるよ.
だから,内臓はその期間で十分育ち機能する.
ただ,骨格がそうではないんだよ.
だから,手っ取り早く骨格は
ロボット工学.
骨に似た擬態なのに,
内臓は凄いんだよ.
良く捉えて,
くっついて
人の成りをする.
そして時が満ちたら動き始めるんだ.
素晴らしい.エクセレントっ。
今度見せてあげるよ.
本当はトップシークレットだけど.
君自身がトップシークレットだから
問題ないだろうね.
心臓が動き始め,目が開く瞬間を
何と表現したら良いのだろう.
体全部が震えるんだよ.
これから骨も遺伝子に細工して,
何倍速で形成できるようにするんだ.
あぁ,すぐそこまで来てるよ.
願う年齢まであげた
全てが完璧な人類が願う通りに誕生するよ.
超人って呼ばれるかなぁ.
取り敢えず医師は今
お話を聞くだけだよ.
それが主な仕事.
全てオートメーションだから.
悪い臓器は全て本人から培養した
新しい臓器に入れ替えるだけ.
それまでに人工臓器を着けて,
他人の合いそうな臓器を
取り急ぎ使ったら
そのまま使う人もいるけれど.
費用が違うよね.
いつだって金の奴隷だ.
それが,
おかしい事だとは思わないよ.
基準がないと安心しないし
優越感を抱きたいし,
あの人より
あの人よりも
上だって思いたいだけなんだけだから.
それがいいのかわるいのかなんて
分からないよ.
ただ,そうする事によって
心の
社会の
安定が得られてるんだから.
ただ,それだけ.」
研究員さんの話を
BGMのように聴きながら,
だから
コミュニケーション学が
やたら多いんだなと
ボンヤリ思う.
知識はザっと取り入れる位で…
患者さんはふかふかなベットに横になり,
後はAIが判断して
必要な検査をし診断をし
手術や投薬をし
退院する.
体が良くなるための手段なんて
正確で素早ければ
どうだって良いのだろう.
凄い世界に来てしまった。
ただそれだけだ。
隣のルカちゃんを見ると
にこって笑ってくれた。
僕にとって最大級の価値がある。
一緒に笑えるようになるには? 食連星 @kakumi
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