第19話

研究員さん,ユウさんは,

1週間に1度顔を出すと,

決まって,

世界を教えてくれているのか

説教を聞かされているのか

講義か講演会か

何だか分からない事を延々と

話してる.

多分,

ルカちゃんが静かに聞いている所を見ると,

別に珍しい事ではないのかもしれない.

きちんと切れ間に反応する所を見ると

ルカちゃんは

しっかりと聞いているのだろう…

僕は…

半ば聞いて半ば聞き流して,

きっと話甲斐のない奴なんだろう.


「心音刻んでる?」

から始まる言葉.

「はぁ.」

生きてるか?みたいな感覚なのかな.

こんにちはとか挨拶感覚の言葉かな.


「生活はどう?

ドールさんは,よくやってる?

あの子の教育を施したのは

俺だから.

分からない価値観なんて

教えてあげられやしないよ.

自分の中の価値観を見せてあげるだけだったから.

価値観が合わなければ

教えてあげて.

これからの時間を共に過ごしながら.」

・・・

何だか気に障る.

僕が知らない時間があるのが.


「ルカちゃんに特別な想いでも?」


「あはは.

どう思う?

あなたを揺さぶろうか?

毎日,眺めて

成長を記して

教えて,

それなりに時間は共有してきたよ.

妬けるかい?

どこにほくろがあって

可愛い癖があって

ふふ.

知らないよ.

そんな怖い顔をするとはね.

今,鏡で見てごらんよ.」

何で,こんな言い方するんだろう.

波風が立つような…立たないような…


「普通ですよ.」

そう,僕は至って普通だ.

いつもと何ら変わりがない.

朝食の話のように同じく聞けている.


「そう?

はは,それで普通と言い張ると.」

・・・

ユウさんの言うように鏡を見たくはない.

そう,

ただ,

それだけなんだ.


「あぁそうだ.

生身の人に会う方が難しくないかい?

ドールさんには毎日会ってるだろうけどね.」



「…そうですね.

会っていないかもしれないです.」

皆ホログラム上で見ているだけ.

ルカちゃん以外で…

ルカちゃんも生身の人間といえるか…

あぁ…

考えるべきではない.

会うとすれば,研究員の面々くらいだ.


「何でも

動かず完結するようになっているからね.

外の紫外線は人を打ちのめすほど強く,

酸素は奪い合い,水は人工的に作り出す.

凄い世界じゃない?


出会いが欲しいなら

詳しい研究員に聞いておくよ.」


「いや別に.

大丈夫ですけど.」


「そう?

俺から聞くとさ,

何かダメでしょ.

リョウ君が聞きたいなら

聞いておくけど.」


「だから…

僕は必要ないですから.

聞きたいなら聞いたらいいじゃないですか.」


「いや…

聞きたいって事はないんだ.」


あぁ…

何で,こんなやりとりを…

不毛だ.


「ドールさんは

骨格以外,生身だよ.」

骨格以外…?

でも,隣にルカちゃんがいるから詳しくは聞けそうにない.

「先ほど聞きましたが.」


「そう.

言ったけど.」


煮え切らない人だな.

何を含む.

あぁ…

「男女間の話ですか?

数か月で,どうこうしてたら

何か,そっちの方が

どうかと思ったりしますけれど.

普通に黙って隣に座っていますし…」

ここで,そんな話をする方が

デリカシーが無い.


「優しい紳士で

安心だね,ドールさん.

お菓子は,どうだい?」


「あのキラキラしたものを.」

一緒に過ごす日々,一緒に美味しいものを食べてる.

キラキラしたゼリーなのかな?

なんだろう.


「うん,あるよ.」

ユウさんが,柔らかい表情で言った.

何だか,無性に落ち着かない.


白い同じような扉が並んだ棚から

ガラスの瓶を取り出してくる.


「それ…

何ですか?」


「うん?

キャンディーだよ.

キラキラしてるって

初めて見た時に言うから,

微笑ましく思ったんだよ.

それ以来,

キラキラしたものをって言う.

意外に繊細なのかもしれない.

人の動きに寄り添う心を持ってる.

そう言った意味では,

優しい者同士で良いのかもしれないね.」


ルカちゃんは,

器用に手に取って眺めた後…

ゴリゴリ噛んでいた…

アグレッシブな食べ方だ.


「今度,同じもの買おうね.」


話しかけると,

嬉しそうに笑った.

欲しい物を気軽に言ってくれたら嬉しいのに.

まだ,言えない関係性なのだと思うと

何だか何とも言えない気持ちになった.

鬱々した気分で横を向くと…

ゴリゴリしながら骨格が変わってた.


「少し…

不細工になってるよ.」


口が止まって

今度は

ルカちゃんの目が死んだ…


「普段は可愛いのに,

今だけ.」

そう言うと,

首を傾けて悩まし気な顔をした.

何か可愛い.


「キャンディーのせいですか?」

と聞いてくるので,

返答を間違うと

食べなくなるんじゃないかって

頭がグルグルした.


「いつもは可愛いんだよ.」

研究員さんが助けてくれた.


「うん…」

目がクルンと大きくなって

気を取り直したような様子で

ホッとした.

ホッとしたと同時に

何だか悔しくなった。

僕の言葉では響かないけれど

研究員さんの

ユウさんの言葉は

信じるんだ。


もしかして,

名前が遺伝子に記憶されているんじゃないかと

よく分からない妄想に

捕らわれそうになった.


研究員さんの言葉は素直に聞くんだねって言うと

過ごした時間が違うだけだよって

言われそうな気がして、

それを聞くと

もっと平常心でいられなくなりそうで

黙った。

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