第12話

寝室は上って言ってたよ.

そうそう.

…どこだよ?

やたらドアあるよ.

手前からソロソロ開けていく.

手前,本いっぱい.

その奥,何か書斎っぽい.

反対,ゲストルームっぽい.

次もゲストルームか?

お手洗い?広すぎない?

一番奥…

ベッドあり.

キングサイズなのかな,これ.

あぁーふかふか.

着替えたいけど,もういいか.

まどろみたい.

あぁ,シャワールームもある.

全部夢でしたって言われても,

もういいや.

何だか堪能したし.


うとうとしてたら

ドアが開いた気がした.

誰?

誰??

夢ん中かな.


反対側のベッドが軋んで

何かが乗っかったような感じがした。

ゆるっと寝返り打つと、

見覚えのあるようなシルエット.

サイドテーブルに眼鏡置いたんだっけ.

あぁ,視力も何故か回復してたっけ.

眼鏡かけて無くても

見える…

見える…

おぉぅっルカちゃん?

伏せた目に僕は映らない.

ふわふわな髪をそっと触ると

感触が…

髪だ.

触れた時に香ってきて,

まざまざと現実だった.


「ねぇ?

寝てる?」


「起きています.」


「うん.

いや,いいんだけど.

悪くはないんだけど.


何で,こんな事になってるんだろう.」


「傍にいて欲しいと…」


あぁ…

それ言ってたね.

確実に…

僕がさ.

「…

確かに言ったよ…

限局的な話では無くてね,

広義的な意味なんだよね…」


きょとんとするルカちゃんが

可愛くて何だか何も言えなくなった.

もう自由にやっていいよ.

何だか何でも許せる自信があるから.


「ゲストルームみたいな部屋あったから,

そこをルカちゃん使いなよ.」


「いいんですかっ!?」

ルンとするルカちゃんが小動物みたいで

「どうぞどうぞ.」

と返事をした.

僕は何もしてないけど.

多分,ここを揃えるのに

ルカちゃんを始め様々な人が

手配をして動いてくれているはずだ.

僕は,この世界で

何が出来るのだろう.

元気な身体を手に入れて

心が腐ったら

目も当てられない.

取り敢えず,学校に通って

世界を見つつ,

頑張らないと.


おおっと,

ルカちゃん,

ここで良かったのかな.

スースー言ってる.

あっちにもベッドあるよって

教えた感じの言葉掛けしたから

いいのかな.


僕も少し

限界.

今寝ると夜眠れなくなるかな…

夢,見られるのだろうか.

昔の事,夢見て目覚める自信が…

無いような気がする.


「リョウさん.

リョウさん.」


あぁ呼ばれてる.

まだ,寝てたい.


「しちじすぎてます…」


あぁ…そう.

しちじ…

19時過ぎ!?


「夜眠れるかーこりゃ…」


「そうですね…

食べてください.

冷めますから.」


「あぁ…

有難う…

でも…寝起きでモリモリ食べられないかも.」

目頭を押さえて,目じりまで引っ張る.

顔洗うべき?

まぁいいや.

頭を掻いて首を撫でる.

「取り敢えず下行こう.」


食卓見て,一人分の食事が目に入って

やるせない気持ちになった.


「一緒に食べられるんだよね?

食べようと思ったら…」


「食べなくても良いんです.」


「うん.

聞いてる.それは分かってる.

分かってるんだけどさ…

食事って,

身体を維持するためだけじゃないんだ.」


「あっ…」


「うん?何なに?

どうしたの?」


「お酒?」


「…うん.

いや,違う.

こんな感じで,お酒が呑みたいな

とか言わないよ.


一緒に食べるって行為を,

時間を共有したいんだよ.

それが,美味しいに繋がってくるんだ.

お皿どこかな.

半分こして一緒に食べよう.

寝起きだし,そんなに食べられないから.

ダメ?」


「ご一緒します!」

張り切って言うルカちゃんが微笑ましかった.


お皿って,誰がどれとか決まってるのかな.

綺麗に盛ってくれてるけれど,

キッチンは綺麗だから,

どうしたんだろう.


多分,色違いの同じ器に盛ったら

大正解だと思うんだ…


「よしっ出来た!

よしよしよし.

さぁ,席に着こう.」


遠慮がちに座るルカちゃんに

気にしなくていいよって

言おうか言うまいか.

食べ始めたら言おうか.


「せーのっ.いっ」

手を合わせる僕に

ルカちゃんは不思議そうなだけで,

声掛けもタイミングなんてもう,

そもそも合う訳も無くて,

おぉーっとって思った.

この作法,今無いのか…?


「手を合わせて,

いただきますって言わない?」


「食事はしなくて良い事なので…」


「…そうなんだ.

これから,一緒に食事をとろう.

両手を合わせて,

いただきますって言うんだ.

命に.命を支えてくれた方々に.


食べ終わったら,

御馳走様でしたって言うんだ.

食卓に乗るまで尽力してくれた方に.


多分,伝わるんだ.

毎日を,そうやって積み重ねて

生きるんだ.」


「素敵な事ですね.」

優しくルカちゃんが笑った.


あなたも,そうして生きていたんだ.

言っても知っても苦しむだけの

情報はいらないかと思い直した.

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