第10話

家の鍵は渡されていない。

網膜と

指の血管と

声帯を反応させて

中に入る。

僕のものも登録済みだった.


マンションと思えないくらい

広かった。


少し新婚さんのようなお揃いの

クッションとかマグカップとか見えて

ドキドキした。


「選んだの?」

と聞くと

「沢山見せられて

よく分からなくなったので、

インテリアコーディネーターさんが

絞って提示してくれた中から選びました。」

とルカちゃんが言った。


「これウォーターサーバー?」


「そうです。」


「使えるの?」


「勿論です。

赤いボタンは熱いの出ますから

ガラスは駄目です。」

と言った…


「うん、それくらい分かってるから

大丈夫だよ。」

と返した。


ルカちゃんが更に続けるので聞いてると、

どうやら割れずに使える食器があるらしい。

プラスチックかと思ったが…

プラスチックは既に禁止物で

一部の愛好家のみが取引しているものだが、

劣化していくので将来的には無くなる物と

いう事だった。

プラスチックでは無く割れない素材があって、

それで揃えたかったらしい。

身近にあるものは記憶に在るものの方が

心理的に安定するだろうという配慮から、

ガラスや陶器を手配したという事らしかった。

この時代にもガラス職人や陶芸家がいるが,

驚くほど高いらしい.

1つ1つの作品が…

それを使って毎日を送ろうとする僕は,

物凄い人なのではないだろうか.

自分じゃ支払いをしていないけれどね.


「有難う。」

素直に口にすると

「いいですよ.

喜んでもらえる事が何よりですから.」

って返ってきた。

可愛い笑顔と共に。

なんだ.

いい感じに笑えるんじゃないか.

ホッとした.


空気中の水素と酸素から

水が出来る装置らしい。

今や便利なものがある。

古くなったら分解してみよう.

少し重厚感のあるガラスコップを置き

水色の部分を触れると透明な水が出た。


テイスティングが楽しみ。

驚きとワクワクと。

…それが、

良くも悪くも裏切られて

普通の水だった。


ルカちゃんも飲むか聞くと、

飲みたいときに飲むから大丈夫です

と言った。


「これ空気清浄機?」


「まぁ、そんなものです。

酸素生成機ですよ。」

と言った。


「今、酸素は機械が作ってくれてるんだ.」


「酸素100%は体に害があるので

適度に不純物を混ぜて21%で出てきます.

業者さんは美味しい酸素が出ますと

言っていましたよ.」

とルカちゃんが何故か満足げに話す.


あぁそういう事.

「うん,分かった.」

これも,

いつか分解してみたいなと思った.


ウロウロする.

「こっちの部屋も開けていいの?」


「どの部屋もリョウさんの家ですから.

じゃんじゃん開けて,どうぞ.」

とルカちゃんが言った.


んーまぁそうなんだけど…

「失礼しまーす.」

こっそり言いながら開けると

壁にスイッチが付いた

白い部屋の中に机と椅子が

配置された部屋だった.


「ここは?」


「空間を繋ぐ部屋です.」


空間を繋ぐ?


「うん…」


「大学には行きません.

大学に来てもらいます.」


「うん…」


「始まれば分かります.

私がサポート役ですから.

安心の安です.」


「うん…」


大丈夫かな…

大丈夫だよね…


何かやたらに目につくのが

健康器具.

部屋にあちこち配置されてある.

運動しなさいよって事なんだろう.

そして,

所々に観葉植物.

植物は今高額取引されているらしい.

何だか凄い世界だ.

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