第9話

「あれ?

1階に降りるんだよね?」


「屋上に行きます.」


「…うん.」


ヘリとかで自宅まで帰るの?

凄いビップ待遇…

逆に怖い.

階段は思ったよりも上れて

息上がりも無く驚いた.


「ねぇ,何で

こんなに動けるんだろう.」

ルカちゃんに聞く訳でもなく

口から出た言葉に

ルカちゃんが反応してくれた.


「過冷却の人工羊水の中で

自動的に運動させられていましたもの。

不自由なく動けているので嬉しいです.」

ルカちゃんがニヤッと笑った.


屋上はガラスのような素材で囲まれた空間だった.

青空も見えるし,気持ちも晴れる感じがした.

「紫外線防止機能のある素材ですから

安心してください.」

真顔でルカちゃんが言った.


「ガラス?」


「まぁそんなとこです.

詳しくは知らないので聞かないでください.」

そういうルカちゃんに笑ってしまった.


自動ドアのような見かけの傍らに

タッチパネルが付いていた.

自動ドアの先は…

何も無い.

そう何もなく遥か階下に地面が見えた.

高所恐怖症ではないけれど,

これは命の危機を感じる高さ.


「大丈夫ですよ.

安全対策はされていますし,

車両が来るまで開きませんから.」

真顔でルカちゃんが話した.


「タッチパネルに座標を入れます.

これから,リョウさんの家に帰ります.」


「あっ…

ちょっと駅前に寄れないかな?

見てみたい.」


「…


何もありません.

もう全てが行かなくても完結する世界ですから.」


「でも…」

僕は見たい.

自分の目で見たいんだ.

こう言う事は我が儘になるのだろうか.


心の惑いを読み取ってくれたのか

ルカちゃんが

「分かりました.

見に行きましょう.」

と言ってくれる.

タッチパネルを地図の画面にし,

それらしきところを設定していた.


すぐに車両が着く.

見た感じは車.

僕が好きそうかなと

スポーツカータイプを選んでくれたらしい.

大正解.

ちょっと,かなり胸躍ってる.

好きなように見せるらしい.

パネルで設定が自由自在.

生体情報と連動してクレジット落ちるから,

現金とか持ち歩かなくてもいいらしい.

持ち歩く人はいないし,

そもそも論,歩く人もいない.


乗る時,

風も感じない位

密封状態で乗るから

下も上もどこもかしこも開いてない.

有難い事だ.

怖いもん.


そして,

中空を走るんだ.

上空は飛行機とかのエリア.


「これね.

動力源,何?」


「しねんですよ.」


…しねん?

死燃?とかなのかな.

ガソリンも元は

古来の微生物が死んだ後の

原油からなる燃料だからねぇ.

もう

もう

もう枯渇するって言われ続けてきたから,

新しい燃料が見つかったって事だろうね.

有難い事だ.


駅前に行く途中の道中は

すっかり景色が

何処が何処だか分からなくて,

同じような高層ビルが昔よりも

多いように見えた.

そこを縫って走る.

衝突防止機能を併用しながら

自動走行していく.

周りに走行車両が無いので

体感速度はよく分からないけれど,

装置に表示される数値通りに考えたら

120km/hで走っているという事なのだろう.

普通に高速道路位で走るんだ.


ルカちゃんが側面のパネルに

触れると

突然,

透明な空間に放たれたようになった…

うおぅっ!

「ちょっと!!!」


何か掴むもの!!!

ルカちゃんにしがみ付く.

本当に大の男が馬鹿みたいなんだけどっ.


「このように視界をクリアにする

事も出来まふ.」

胸元で困ったように

ふごふご話すルカちゃん.

もっとふごふごしていたけれど、

脳内変換した。


「…御免.

今すぐ元に戻して…

怖いって,これ…」


「分かりました.」


はぁー.

何だか振り回される…

冷静になると,

何て事したんだって,

色んな意味で赤面.


「こういうの突然は止めてよ…

怖いから.本当に.

無理矢理抱き付いて御免.

苦しくなかった?」


「次はしません.

苦しくはなかったです.

窓からご覧ください.」


「ここ,…駅?」

面影も無く,ただ森が広がる…


「これはホログラムです.

昔のような森は…木は,ここで育ちません.

ただ,気休めの投影なだけです.」


気休めの投影…

「そう…

分かった,有難う.

もう帰ろう.」

もう帰ろう…

何だか疲れた.


道中,ルカちゃんが言った.

「マングローブみたいな木が植えられていますよ.

投影は未来の姿.

人は希望を抱き,あの未来を想う.

平地は水かさが増していて,陸地は減ってきている.

だけど,それでも生きとし生けるものは頑張る.

与えられた生を全うしようと.進化しようと.」

しっかり瞳には意志を感じて,

眩しく見えた.

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