第4話

「あぁ,そう.

お名前は,このままでいいの?

リョウくん.

全く別の人になってもいいんだよ.

だって誰も知らないんだから.

貴方も全く知らない周囲に,

貴方を全く知らない周囲.」

研究員さんが話す.

確かにそうかもしれない.

しれないけれど…


「良いですよ.

このままで.

名前をかえたところで,

別人になったりは出来ないですから.


研究員さんの御名前は?」


「佐々野ユウですが.」


まさか…


「知り合いではありませんよ.

綺麗な想い出?


想い出が綺麗に見える様になったら…

終わってるよ.」


「かもしれません.

でも,終わるつもりも毛頭ないですから.

すがって生きていくつもりはありませんが,

抱えて生きていく覚悟は出来ています.

忘れて生きていくつもりも

手放して生きるつもりもないですよ.

僕はこれからの人なので.」

そう,これからも生きてくんだ.

このまま,

今の僕で.


「強いね.」


「弱いですよ.

無かった事に出来ませんから.

そこまで強くはないです.」


「大変な生き様を選んだね.」


「そうかもしれませんね…」

ぼんやり呟いた.


生きたくて,

快適に生きていくために,

選んだはずなのに,

何でだろう.

体は健康なのに,

今の心は…

健康なのだろうか.

心は実は病んでいて…

体に影響を与えるのではないのだろうか.

全てを過去に置いてきた.

築いてきたもの全て.

家族も友人も持ち物も…

想い出だけ持ってきた.

その想い出は…

必要か.

全て霧の中なのに.

確かめる術のない記憶は,

記憶した対象の無いまま

あやふやで.


ふと,

ルカちゃんが袖を引っ張っている事に気が付いた.


ん?


目が合うとニヤッと笑った…


え…

ここは普通ニコッとするとこじゃないの?

何企んでるの…?


「帰ろうよ.

ここに居たら良くない.」

心配そうな顔で話すルカちゃんから

僕への気遣いが感じられた.


「良くない事してるように言うね.

必要な事だよ.」

研究員さんが無機質に話す.


「でも…」


いいよ大丈夫だよって言葉が

出遅れた…


「ドールさん,フリーズ!」

研究員さんの言葉に

ピタッとルカちゃんが止まる.

おびえた表情と共に.

そうコマンドされているのかもしれない.


「研究員さん!

ルカちゃんは,これから僕と過ごす.

これからの時間を…

こんな顔をさせたくない.

話して分かるはずだ!」


「…

悪かった.

ドールさん,ディフロスト.」


安堵の表情と共に

ルカちゃんが動き始める.


何で,その単語.

嫌味に聞こえる.

誰が選んだんだ.

でも,こうやってムッと出来る事は,

僕にとって多分良い事.

何も感じなくなった時,

きっと…

もう駄目なんだろうな.


そして…

ドール…

どんな区別になるのだろう.


聞こうか悩んだ表情を,

研究員は見逃さなかったようだ.

こういう能力は,

職業人であるからなのか,

元々持った気質なのか,

気になった.


「ハイブリッドだよ.

遺伝子とロボットの.

出来ない所があるんだよね.

互いを補ってる.

この子のメンテの度に来なよ.

もっとも

君の方が周期が早いけど.」


呑気に笑ってる研究員だ.







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