第3話

急にノックする音が聞こえた.


「どうぞ.」

研究員さんが返事をするか

しないかの時,

もう既にドアは開いていた.

せっかちな人なのか,

そもそも聞く気持ちは無かったのか.


食い気味の人物を見て…

息を呑んだ.


ルカちゃん…

中学生の時,見た記憶と一緒だった.


「オリジナルを知らないから,

何ともあれだけど.

ちょっと,あれは難しいよ.

少し欠損してるかもしれない.

不思議ちゃんに育ってる.

良くも悪くも,

そのくらいの方が良いのかもね.

お互いに.

この子も,この子で生きてくよ.

責任とか思わなくて良い.

手に負えなくなったら,持っておいで.

ここに.

心配いらない.

自分の事で精一杯で大丈夫.」


旧友に,これから治療に入るって話と,

ルカちゃんの学生鞄を貰った.

いぶかしがったけれど,

内容が内容だけに持ってきてくれた.

頑張れよとか,なんかそんな事を

言ってたような気がするけど,

耳から素通りしていった.

お前はいいな,そう口から飛び出そうで,

とめどなく滅茶苦茶言いそうになって,

ぐっとこらえて,

んじゃまぁ未来に行ってくるね

そう言って,

笑って別れた.


「希望通り,14~15歳くらいで取り出した.

いろいろ教え込んでるよ.」

「色々?」

「あぁ変な意味じゃないよ.」

「今,それこそ色々とうるさいんだよ.

女性のパートナーは家事なぞさせるつもりで

選んだんだろって.

男性のパートナーは種族を後退させるのかって.

どっち選んでも,言う奴は言う.

どの世界でもいるけど,

色々外注してきてるから,

精神世界が活発でさ.

心だけ,非常に発展してるよ.

好きなものも様々.

どこも儲からんよね.

しのぎを削ってるんだから.」

乾いた笑いをしてた.


ルカちゃんを見ながら

研究員さんは,

「少し静かにしておいてね.」

と話すと,

ルカちゃんは静かに頷いた.


あぁ,そうだ.

「泣きませんよ.

泣く方に賭けましたか?」


「え…

何?君,聞いてたの?」


「耳は早くに回復してましたから.」


「何で言わなかったの…?」


「正誤確認された時に困らないですか?」


「あぁ…

確かにね.

んーどうしよっかな.

報告する時さ.

でも,データとして残しときたいよね.」


「今,ここで話し合わせても良いです.」


「これは貸しな.

いつか何か奢るよ.

さて,身内の生い立ちを告げるようになってるけど?

聞く?」


「聞かないで良いですよ.

どうでもいい…

いや,どうでも良くはないんだけど,

聞いても,何も出来ないし.

聞いた所でって…気分ですけど.」

チラッと見ると,

研究者は短い髪を掻いてた.


「これ読んで生体反応を見るってあるんだけど…」



「適当に書けますよね.

それこそ,泣きわめいたりしませんよ.

きっと,聞いた後,

そうですか…

くらいなこと言って,顔を曇らせた…

くらいでしょ.」


「はぁ…

これ,君に渡しとくわ.

封筒.

読みたくなった時に読んで.

泣きたくなったら,ここにおいでよ.」


「泣きたくなったら…

泣きませんし,来ませんよ.

でも,受け取っておきます.

こんな所に個人情報置いとけないから.」

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