第2話

ひとしきり済んだ後,

男性の研究員に任されて,

他は出て行った.


眩しいのかなと思ってたけれど,

じんわり戻ったし,

部屋の光度が極端に落とされていた.


「これから,私が説明しますね.

あぁ,100年って予定でしたけれど,

コールドスリープで進むと,

微生物の動きも緩慢でしてね.

100年で溶いても良かったのですが,

治りきっていないのに溶かれるのも…

いかんせんですよね?

その辺り規約にありましたから,

もう仕方ない事だとは思います.

あなたの指紋付きの資料を見ましたので.

やむを得ない場合に,

期間は延長されるって文言が入っていました.


その分,色がついています.

一生遊んで暮らせる額が振り込まれています.

本当に,大学へ戻られますか?」


「あー…

治りきってなかったんですね…

そしたら仕方ないか.

今,治ってるんですよね?」


「勿論です.

何のためにやってきたか分からない事になりますから.

炎症反応も落ち着いていますよ.

データ上.

今,頭も,目も,どこもかしこもクリアですよね.」


「確かに,どこも痛くないです.

この治療法確立されるんですか?」


「…どう思います?」


「…どうって…」


「正直,時間もものすげぇ使うし,

費用も馬鹿にならん位で,

どうなんでしょうね.

感想は?」


研究員の口調が変わった.

個人的な話って事なのかもしれない.


「体が治った事には感謝しています.

ただ…

多分,これからですよね.

僕が正気でいられるか.」


研究員が笑った.

「そうだよね.

そこなんだよ.

人間様は複雑だから.

いや,君がどうとかこうとかではなくて,

俺も君もって事だよ.」


「だからこそ,

通常に戻りたいっていうか…」


「もう,そこは変わってるかもしれないよ.

というか変わってると思うべきだ.

200年で変わってる.

内容も,環境も,

耐えられる?」


「耐えられるか…どうか…

でも,全く違う事も出来ない訳で…」


「困ったらここにおいでよ.

多分,俺と君同じくらい.

君の方が200年先輩だけど.


面白くない?

ずっと,動かずデータ上で管理した人が,

また動いて,こうして話が出来てる.

祖母より,もっと上の世代の人と

俺,今話してる.

祖母ですら,もう話せないのに.


俺,ばあちゃんっこだったから.

両親が忙しくてね.

何言っても笑ってんのよ.

口悪かったと思うし.

迷惑ばっかりかけたし.


だけど,今,

研究してんのよって.

病で苦しんでる人が,

元気になって生きてんのよって.

言ってやりてぇわ.」


目の前の研究者は

懐かしんだような目をして,

長々と話した.

だけど,

物凄い奇抜な話っていう訳でも無くて,

本当に極普通の話を

普通にしていた.


「何,惚けてんの.」


「あぁ,いえ,

200年経っても,そんなに言ってる事

変わらないなとか…

いえ…

すみません.」


「人の営みは変わりませんよ.

根幹の基本は一緒で,

周りだけ変わっていくんです.

環境だけ.

一気にスーパーマンとかに

なれやしませんから.」

研究員が笑った.


「この時代にもスーパーマンとか

知ってる人いるんだ.」


「あぁ,スーパーマンって使いますよ.

映画とか観てる人…

どうだろうな.

もう言葉の綾として定着してる感じです.」


そうなんだ.

映画も沢山観直してみよう.

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