第15話 灰髪の太郎



「ええと…………。お名前、聞いても……良い、ですか?」



 ミーヤ・ウラノメリス。

 そう名乗った翡翠髪オレ美少女いもうとは、初めて言葉を交わす他人かの如く、探り探りと俺の顔色を伺う………。



「フフ、美夜?一体どう」

「ミーヤ。この娘のお名前はミーヤよ、間違え無いで! 後、ここの線から1ミリでもコッチに寄って来たら、その瞬間に顔面ブッ飛ばだからね!!!」

「もぉ、アリスちゃん! すみません、アリスちゃんは人見知りが激しくて………」


(シャ─────────!)



 その様は毛を逆立てる赤猫の如く、少女は美少女ミヤに抱き付きながらに俺を威嚇する………。

 やれやれ♪ どうやら俺の妹は、久々と会したアネにタチの悪い冗談を、



「あ、あの。抱擁アレからずっと考えていたんですけど………やっぱり私達、初対面はじめましてですよね(ですよね、ですよね……よねよねよね)?」


「み、美夜………?」

「だから! ミ、、ヤ!!!」

「………………」



 絶句、衝撃、困惑、哀愁……………、グゥの音も出ずとは当に現状。

 輝石ちくびの辺りにズキリ!と走ったこの痛み。昨晩魔女の紫電に潰された左眼の疼きよりも、刹那に胸の内を駆け抜けたこの痛みの方が、何倍。


 否、何十、何百倍とも耐え難い………………。


 くにを守れず、これほど見違えるまでに美夜いもうとの側を離れたアネに、美夜は怒っているのだろうか………?



「………すまない。其方が、私の知人に瓜二つなものでな。ところで其方には、が居るのではない、か?」


「!?」


 驚き、否。困惑だろうか?


「え、えぇ。確かに私には姉が居ましけど………、姉は四年前ににました」

「………そ、そうか。すまない」


 ニコニコと、いと美しき微笑の陰に垣間見えた深い哀しみ………。


『姉は死んだ』


 彼女ミーヤのその一言に、俺は総てを察する。



「いえ………。あ! お菓子どうですか? このクッキー美味しいんですよ♪」

「………すまない」



(姉ね様♪ 姉ね様? 姉ね様♡)



 嘗てさも当然と俺の腕の中にあった、あの笑顔。

 俺が守るべき、否。護らねばならなかった美夜てんしは、もう何処にも居ないのだな………………。



「て言うか、アンタ名前!」

「あ!」

「ハワワ………」


「あぁ、そうだったな………。俺の名前は、太郎ジョン。浦島太郎ジョンだ」




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