第8話 灰色の虜囚



(姉〜ね様♪ 姉ね様? あのね、あのね?♪ 美夜はね、姉ね様とね………)



 夢を見た。

 可愛い俺の美夜いもうとがただただ可愛い、懐かしくもつい昨日の如き夢………。もう決して戻る事の出来ないはずの、あの日々の夢を。



 ************



「………」

「フッ♪ 目覚めたか、漸くと」



 見知らぬ天井、白い影に覆われた左眼にパタン!と響く乾いた音。

 ギシリと軋むベッドの鉄柵に大の字と両の手足を縛られる傍らを見遣れば、紫髪の魔女の不敵な笑みが俺の無様を覗く。



「すまなかったな昨日は。少々加減を誤った、私とした事が」

「フン、心にも無いことを………美夜、そうだ美夜!!! 貴様、美夜に何をした!!!!!」

「クフフフフ♪ 何をしたとは異な事を。何かしようとしたのは、お前様の方であろう? 私の教え子に、なぁミーヤ?」

「美夜!?」



 魔女の視線、白き死角となったその左側さきには誰も居ない………。



「貴さ、………クッ」

「クフフフフ♪ 分かりが容易たやす過ぎるなお前様、ハハハハハハ♪」

「おのれ………」

「あー、動くな動くな、障るぞ傷に。

 左眼あたまを紫電の一閃に貫かれたのだ。未だ完全に塞がってはおらんよ流石にな、この様なをそのに宿していようともだ」



 奇跡………。

 魔女は変わらず不敵に俺の襟元を指し、解いた晒しから覗く忌々しき灰色の輝石いぶつをコツコツと弾いて見せる。


 魔女を魔女足らしめる、人外の輝石。

 魔女の胸の中央、そこに等しく煌めく輝石コレを、俺は『第三の乳首』と呼ぶ。


 何故この様な輝石いぶつが俺の胸に埋まっているのかなど知らない。あの惨劇の夜から再び目覚めた時、既にこの輝石は俺の胸の中央に露わとなっていた。



「クフフフ♪ 流石に驚いたぞ私もな、まさか巷で話題の辻揉みが、我らと同じであったとは」

「同じでは無い!!! 何が聖女だ。忌々しい魔女め」


「クフフフフ♪ 魔女か、随分と懐かしい呼び方をしてくれる。

 知っているかお前様、最近巷では聖女わたしたちの事を魔法と呼んでいるそうだ♪」

「フン、少女だと? 寝言は寝る間に言うものだが?」

「ほぅ………随分と強気だがお前様、理解した上での発言、か?♪ 自らの置かれている状況を」



 変わらず眼の冷めた不敵な笑みを湛える魔女は晒しの隙間に滑らせた手で、俺の表情かおを伺いつつ、左の乳房を鷲掴む………。鷲掴み、円を描くかの如く滑らかに指をくねらせながら、



「………そう言えば、未だだったな?剥かれた礼が♪」



 俺の右の耳へと吐息をかける………。



「クッ………辱めは受けない。殺せ!!!」

「殺す? クフフフフ♪」



 魔女は俺の耳元で囁かく嗤い、右耳に軽く口付けると、晒しに滑り込ませていた右手を、今度は更に下へと伸ばしていく。まるで瀕死の獲物を嬲る狩人が如く、下へ、下へ、ゆっくりと……………。



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