00ゲーム
千園参
第 話
その日は突然訪れた---
全世界のテレビ、モニター、巨大な液晶画面を装備した飛行船、スマートフォン、ガラパゴス携帯、ラジオに至るまで。
この世界の画面という画面が、スピーカーというスピーカーが、音という音が、隅から隅まで、隅々まで、ハッキングされ、1人の男が映し出された。ハンサムな顔立ちに、整えられた髪型、全身真っ黒なスーツ、男は紳士のような出立で、画面にちょうど上半身、腰から頭の先までが映るように立っている。
何もかもが計算し尽くされたその状況、男は笑うことなどせず、ニヤけることもせず、ただ、ただただ、立っている。
男が映し出されてから数分、男がついにその重々しい軽口を開いた。
「皆さんご機嫌よう。私が誰かわかるかな?」
その問いに対して、答えを述べる者はいない。誰1人としていない。
「おいおい、誰か答えてくれよ。寂しいじゃないか。まぁいい。私の名前は
その言葉に多分、おそらく、全世界の画面という画面を観ていた、もとい、観せられていた人々は首を傾げたと思う。それほどまでに意味のわからない言葉。意味が汲み取れない言葉。
「さあ、始めよう」
男がその言葉を発し時だっただろう。
各地に置いてある黒い円柱のようなナニカが光を放ち、天を突いたのは。
天を貫く光の柱たちは全世界の至る所で確認されることになった。
しかし、だがしかし、この状況を、状態を、現状を、異常を誰もが発信しようとしても、配信しようとしても、誰も何もできない。
何故か?
そんなことは簡単であった、単純であった、単純明快であった。
何故なら全てのツールがハッキングされ、使えないからだ。
やがて天に伸びる光の柱は空に巨大な穴を空けた。
空に穴が空いた時、世界の誰もが思った。
『今日、今日という日に、世界は滅びるのだろうと』
滅び行く世界を背に、柳織は言葉を続ける。
「この柱を設置するのは容易じゃなかったよ。なんせ地球の国々に設置してあるんだから。本当に大変だったよ。しかし、その甲斐あって、世界はようやく生まれ変わる。私の望む世界に」
警察、国際警察、テロ対策組織、平和を守ろうとする組織が総出で柳織の居所を調べ上げる。
『柳織は今、日本にいる。日本のとあるビルにいる』
町の、国の、あちらこちらで、そちらどちらで、緊急車両のサイレンが鳴り響く。
「安心したまえよ。皆さんが思っているような、世界滅亡なんて考えてはない。私は今、世界を作り変えている。それだけのことさ。既存のつまらない世界を消し去り、愛に満ち溢れた素晴らしい世界を作っているのさ。むしろ、感謝してほしいくらいさ」
柳織は自らを崇めよと言わんばかりに両の手を、両の腕を大きく広げる。
「もうすぐだ。もうすぐ世界のインストールが終わる!!」
その数秒後、光の柱と巨大な穴は消滅したと同時に、各地に見たこともない植物が急激に、
そして完全に見たこともない植物によって森と化した町には、見たこともないバケモノが徘徊し、人を食らうというショッキングな、刺激の強過ぎる映像が映し出されてしまった。
「見たか! これこそが私の望んだ世界!! 異世界だよ」
映像と共に柳織は高らかに、まるでおもちゃを買って貰った子供のように嬉しそうに、喜びを隠すことなく、満面の笑みで語り始める。
「どうだ! 私の生み出したこの技術で地球そのものを異世界にしたのさ! どうしてこんな酷いことをするのか? 何を言っている? これは世界のためさ。私はある時、考えた世界には愛が不足していると。それと同時に閃きました! ならば世界を、地球を! 愛に溢れた世界にしようじゃないかと」
尚も柳織の地球を巻き込んだ大きな独り言は続く。
「知っているかい? 人はドキドキした気持ちを恋だと錯覚する。故にドキドキした時、人は恋に落ちる。もうわかったかな? 私はこの世界を異世界化し、人々に恐怖を与えることで、ドキドキを、胸の高鳴りを加速させ、この世界を無限の愛で満たすのさ!! 地球人よ、私の世界で思う存分、愛し合ってくれたまえ! さぁ
柳織が演説を終えた途端のことだった、モニター越しからでも鳴り響いた、鳴り散らした、発砲音をと共に、柳織は額のど真ん中を撃ち抜かれ、倒れた。
そして映像もそこで途切れてしまった。
柳織は何者かによって殺害されてしまったが、この異世界と化した世界が元に戻ることはなく、地球という星は、見たことのない植物が生い茂り、魔物が人を食らう、恐ろしい世界へと変わり果ててしまった。
この世界はこれからどうなるのだろうか?
00ゲーム 千園参 @chen_san
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。00ゲームの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます