エピローグ
「天界へようこそ」
あたしのまえには女神様がいる。
立っているというか、ちょっと浮いている感じ。
ああ、死んだんだ。
あの大型トラックに見事にはねられて。
でも……。
「トラックの運転手さんには悪いことをしちゃった」
「え?」
思わずつぶやいたあたしに、女神様が首をかしげる。
「トラックって、どのトラックのことかしら」
「あたしのことをはねたトラックです。
居眠りとか暴走とかならともかく、ふつうに仕事のために道を走っているところに女子高生が飛び出してきて人身事故なんて、気の毒だと思って」
まあいまはドラレコとかちゃんとあるし、過失なしで大丈夫かもしれないけど。
それでも、あたしなんかのジサツを手伝わされた心の傷は、ずっと癒えないだろう。
ところが。
「貴女、トラックにはねられてなんかいないわよ?」
「へ?」
思わずへんな声がでた。
いや、でるでしょそりゃ。
「事実だけいうから、落ち着いて聞いてね」
こほん、と女神様が咳ばらいをして。
「貴女は交番のまえで突然道路に向かって駆け出し、転んで縁石に頭をぶつけて亡くなりました。
トラックはすこし蛇行しながらもそのまま走り去り、そして、女性警察官と揉みあっていた暴漢はあまりのことに驚いて力を抜き、あっけなく制圧されました」
いやいや。
いやいやいや。
めっちゃレア!
あたしの死因ガチャ、めっちゃレアなやつ引いてる。
なんなの縁石って。
排出率1%なさそうじゃない?
「はー……。あはは」
死んでからはじめてつくため息は、苦笑まじりのものだった。
それをどう見たのか女神様もにっこりと笑っている。
「じゃあ、場もなごんだところで転生の手続きに入りましょう」
「あ、はーい」
死ぬのは嫌だったけど、転生はすこし楽しみでもある。
勇者だろうか魔王だろうか。
まあ、縁石で死んじゃうあたしみたいなやつは、異世界でもしがないイチ市民かもしれないけど。
「まずはどんな世界がいいかしら?」
「え」
そこから選べるんだ。
ユーザーフレンドリーというか、自由度が高いというか。
「じゃあ、あたしは、結局またふつうに生きたいかも」
「同じ世界がいいってこと?」
それもありなの?
それなら、また同じあたしとして生まれるのもいいかもしれない。
「同一人物はダメよ。同じ結果になって無限ループしちゃうから」
「あ、なるほど」
うーん、それじゃあどうすればいいんだろう。
できればまた、同じ両親がいいんだけど。
なんてことを考えて悩んでいるあたしに、なにやら資料を見ていた女神様がいった。
「あなたのおうち、もうすぐ赤ちゃんができるみたいよ。これに入ることにする?」
「お願いします!」
即答。
だって、だって。
あのふたりが、おかーさんとおとーさんが。
あたしの突然の死から立ち直って、また子作りをしたってこと。
年甲斐もなくってほど年でもないし。
ちゃんと、前を向いてくれたって証拠だから。
「わかったわ。それじゃあ、転生させるわね。……転生したらまずなにがしたい?」
「おかーさんの胸でいっぱい泣きたい」
赤ちゃんだしね。
転生トラックには上手にはねられたい monaca @mo-na-ca
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます