05 ストップ懲戒免職

 交番のまえでは、女性のお巡りさんとおじさんが取っ組み合っている。


 制圧術とかいうんだっけ、なにかいい感じに、おじさんの腕をねじ上げようとしているんだけど。

 おじさんも必死に抵抗していて、どうにもうまくきまらない。


 お巡りさんも当然必死。


 いつもはもうひとり、おとーさんくらいの男のお巡りさんもいるんだけど、いまはどこにも見当たらない。

 きっとほかの事件とか事故で、ひとりになったところを狙われたんだ。

 もしかしたら嘘の通報とかで引き離されたのかも。


「って、そこまで考えてはないかな」


 交番に近づきながらあたしは思った。

 よく見えるようになってわかったけど、おじさんの目、だいぶやばい。


 近づくなって?

 まあ、ふつうはそうだよね。

 決死のやじ馬根性でもないかぎりは、こんな現場に近づいちゃいけないってのはわかっている。


 でもあたし、死ぬことになっているから。

 きっとあの拳銃の弾で。


 下手に距離とったりすると、あたしを殺すまでにほかの犠牲者がでちゃうかもしれないじゃん。

 あの婦警さんがまず怪我するだろうし。

 ほらそこで、さっき先に横断歩道を渡ったおばあちゃんたちも凍りついている。

 誰に被害が及ぶかわかったもんじゃない。


「あたしだけで、じゅーぶん」


 10メートルくらいまで近づいた。

 さすがに婦警さんが気づいて怒鳴る。


「ッ! 離れて!」


 すごく怖い表情であたしのことを見た。

 怖いけど、憎んでいるんじゃなくて、本当に必死な顔。

 自分よりずっと体格の大きいおじさんに襲われていて、それでも、あたしのことを心配してくれている。


 ドラマで観たけど、警察官になるには警察学校で地獄の特訓を受けるらしい。

 女のひとでも、男のひとと同じように。

 だって、事件のまえでは性別なんて関係ないんだから。


 並大抵の根性では警察官にはなれない。

 ただの就職のつもりで入っても、警察学校を卒業するには正義感や使命感がなくてはきっとダメなんだ。


 でも、そんな人たちでも、拳銃を暴漢に奪われたら……。


「懲戒免職とか、なっちゃうのかも」


 それは嫌だな、と思った。

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