02 サヨナラの既読

 お別れはちゃんと言いたい。

 けど、だけど、遺書っぽくないお別れの言葉なんて、そんな器用な言いまわし思いつかないよ!


「困る~」


 と、そこで。

 ポポンみたいな音が鳴って。


『もう帰ってる?』

 おかーさんからLINEがきた。


 すぐ返す。

『まだ帰り中』


 すこし間が空く。

 あ、これ、おかーさん特有の長いやつがくる。


『あのね、お母さんの同僚に霊感がある人がいて、その人があんたのこと今日危ないって言ってるから。

 お母さんそういうの信じてないけど、万が一ってことがあるから、今日は寄り道しないで気をつけて帰るようにね』


 はい?


 あたし今日、危ないんだって。

 知ってる。

 めちゃくちゃ知ってるやつ。


 これ、あたしもさっき似たようなこといわれましたからね。

 未来のこと見えるひとって案外あちこちにいたりするのかな。


「まあ、あたしのほうがもっとはっきりいわれちゃったけど。転生とか死ぬとか」


 さすが千円払っただけのことはある。

 おかーさんのはきっとタダで教えてもらったやつだし。


「んー、なんて返そう」


 それな、とか。

 草も生やしとく?


「いやふざけてる場合ではないね」


 あーーーどうしよ。


 迷っているうちに続けてポポン。

『パート戻るね』


 あ。

 霊感とかそういうの信じてないとかいいながら、仕事抜けて慌ててLINEくれてんじゃん。


『ありがとう気をつけます』

 気がつくと、あたしは自然と返していた。


 そのメッセージに既読がついたから。


「これでもう、お別れ完了」


 ってことで、どうか。

 お許しください、お母様。

 娘は万全に気をつけて、それでもサヨナラだったのです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る