第20話 そして誰も着いてきていなかった

晩夏の昼間、学生はプールやバーベキューやらで数少ない青春を謳歌している時期。

そんな貴重なサークルを仕事で使っている変わり者もいる。

その3人は人が密集して暑苦しい大通りで立ち止まり、店の前にあるメニュー表を見ていた。

――――――かれこれ5分はたったのだろうか。

メニューに迷っているのか、入店するのに躊躇しているのか時間が掛かっていた。


煉瓦造りの外装に広々としたテラス席もあって、インスタ映えしそう店構えをしている。

この店の何処に迷いが生じるのか、一見わからなかった。

そんな中、幼い容姿をした女性が「迷うくらいなら入ろう」と2人の腕を引っ張って入店した。


「「「いらっしゃいませ、お嬢様」」」


入店すると、和洋折衷にお姫様や獣人風と多様なコスプレをした可愛らしい女性達が出迎えてくれた。

内装はモノトーンな色合いにテーブルと椅子が並び、チェスの盤上を思わすようなフローリングが女性達の衣装に目を引かせている。


「3名様ですね、お席はテラス席でよろしいでしょうか?お嬢様?」

「構わないけど、ごめんね。混んでくる時間帯なのに気ぃ使わせちゃって」

「大丈夫ですよ、お嬢様。ごゆっくりして行ってくださいね」


顔見知りなのだろうか?チャイナコスをしたウェイトレスと親しく話している。

彼女らがテラス席に座ったの同時に、客が殺到してきた。

時刻も12時を過ぎており、店も混み出す時間帯だ。

あのまま店の前で悩んでいたら、炎天下の中外で待たされることになっていた。


キィィィン、ガチャン

「いらっしゃいませ、お嬢様。大変申し訳ないのですが、今ご主人様お嬢様で満席になっていますので、そこの椅子でお待ち出来ますか?」


ひと足遅くて入店して来た女性。

キリッとした容姿にスタイル抜群の美少女が現れ、目を引かれた。

私はその女性を余り印象良く思っていない。

なぜなら、私の気になっている人に急接近してきたからだ。しかも、禁中事態だったとは言えお姫様抱っこまでされたらしい。…………はっきり言って、おじゃま虫だ。

想像できないだろうが、そのおじゃま虫と気になる人と3人でお出かけする事になったのだが、今思えば余り関わろうとしなかったな。

数週間経ったが、それ以来1度も話していなかった。

普段の陽気な仮面を被ったコミュ障な自分なら、話しかけないだろう。

ただ顔見知りを炎天下に放り出すのが心苦しいのとあれから彼と何を話したのかが気になり、声をかけてしまった。


「そうですか。じゃ――」

「よ、淀川さーん、一緒にランチしない?」

「えっ…………やっぱり帰り――」

「淀川さん久しぶりぃー。せっかくだからランチしよっか。あ、メイドさん。3名から4名になりますけど構いませんか?」

「大丈夫ですよ。こちらこそご主人様お嬢様方が帰られる時間帯なので助かります」


私の顔を見て逃げようしたのだが、頼れる先輩のお陰で相席することになった



・・・・・・


「で、あなた達は知り合いなのかな?てか、何経由で知り合ったの?」

「「平野経由かな(です)」」

「あ、私は先輩後輩の関係です」


各々の目の前に注文した料理とドリンクが置かれ、微妙な空気感で黙食をしていた所に振られた話題。

3人の関係性を知らない中野教授からすれば、濃いメンツが一同に集まっている。

コスプレ喫茶という非日常的な空間にいるのに、目の前の3人の方が奇矯に思えているのだろう。


「平野くんねぇ。個性的な子だと思ったけど、より個性派な子達に気に入られるとはね」

「平野くんらは旅行に行ってるんだよね。教授も一応顧問なんだから行けば良かったのに」

「研究が捗らないんだから仕方ないわ。そういうあなた達はさそわれたんでしょ」


平野くんらの旅行の話を振られた瞬間、数日前まで沈んでいた旭とその原因を作った宇佐先輩の顔色が変わった。


「そ、そういえば淀川さんは平野くんに誘われなかったの?」

「私は遠慮しましたけど、旭さんは行かなかったのね。彼のこと高校から追っかけてるんでしょ」

「ストーカーじゃないから、どっちかって言うと向こうがストーカーみたいな?」


いや、旅行に行けなくなって数日飲まず食わずになってたのは誰なのよ。

親御さんやバイト先への連絡をしつつ、サークル活動もこなしていた私を褒めてほしいわ。

教授がコスプレ喫茶に連れていってくれるまで黙りしていたんだから。


「そ、それに男士水入らずの場に女子が入ってたら気ぃ遣わすじゃない。ね、ねぇ先輩?」

「う、うん」

「こらこら喧嘩しないの。淀川さんも今日は奢るから食べてね」

「いえ、幼い子に奢らせるのは申し訳ないんで。なんなら私が奢りましょうか?」

「ちょ、淀川さん」


教授を子供扱いするなんて、落単になっても知らないから。


「ほ、本当にいいの?な、ならデザートも注文していいかな?」

「私もアイスティー注文していいかな?」

「いいですよ。旭さんは、なにか頼みます?」

「うーん、いらない」

「そう、意地っ張りね」


旭からすれば好敵手に恵んでもらうのは、プライドが許さないのだろう。

教授に至っては禁句の〝幼い〟と言うワードに幼い認定をされたのにプライドを捨てているのだ。

さっきまでの救世主感が台無しになっている。


「ハァン、平野くんねぇクゥン。彼も学祭に向けて色々やってから中々会えないもんね」

「それはいいことじゃない。彼がいると騒がしいし、予定を立てにくいのよ」

「それは誘われたら行くって感じかな?」

「そういう訳ではないけど、3回に1回くらいは誘いに乗ってもいいかなって」


実際、コスプレ喫茶も汰百と来てからハマったらしい。料理もかなり凝っていて、ドリンクも安いのに本格的だから人気あるって教授が言ってからな。

コスプレを毛嫌いしてそうな淀川さん来るんだから相当なものだ。


「ふぅーん、旭は学祭どうするの?うちのサークルは展示がメインだから当日暇だし誰かと回るの?」


こちらを小馬鹿にするように笑みを浮かべている。

ストローを回してアイスティーを飲んでいるだけなのに広告CMみたいに目を引かれるのが余計腹が立つ。


「も、もちろん先輩と周りますよ。きょ、教授と淀川さんも一緒に回らない?」

「私はいいけど、平野くんらのサークルでイベントをするなら分からないかな」

「私はいいけど、いいのかしら?」

「どうせ1人でぶらぶらするか、行かないかのどちらなんでしょ。なら、一緒に回った方が得じゃない?」


ほっておいたら汰百が学祭を回ろうと誘うかもしれないからね。

それなら隣にいた方が万が一に対応出来て、汰百と学祭行けるかもだし。


「泣けること言うじゃん。まぁ泣かないけど。それより、黒白コンには3人とも出るの?」

「黒白コンって、大学にあるホールを使ってやるミスコンのこと?」

「それ、うちの大学だとそれ目当てで入学するくらい影響力のあるイベントだからね」


『ミス黒白コンテスト』、通称黒白コンとかなり有名なイベントっぽいけど私は興味無いかな。

淀川さんの方も見るけど、余り関心が無さそうだ。


「私は出るよ。出場するだけで学内では噂になるんなら、サークルの宣伝にもなるしね」

「へぇー、まっ頑張ってください」

「興味なさげだなぁ。3人共出ようよ」

「気が向いたら考えますよ。モデル業に行かせるかもだし」

「私は見る専だからパス」

「ですよねぇ、旭は?」


そう言うと、視線は彼女に集まった。

ただでさえ話しかけられる体質の自分が学祭で悪目立ちしたら、今まで以上に絡まれるのは間違いない。

でも、あいつなら――――


「私は……あいつ次第かな」


その答えた後、宇佐先輩に誰だれと問いただされたの仕方ない。

他の2人はスイーツやパスタを堪能して、満足気にしていた。

異色の女子トークはその後、淀川さんが仕事で急遽出ていったので、お支払いは教授が持つことになった

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